幻夢鏡エピソード

私には名前がなかった。

私は…両親を知らない。

だから…家族というものがわからなかった。

生まれて間もない頃にとある孤児院施設の人達に拾われて私は生きながらえている。


数年が立ってある程度言葉の理解なんとなくできてきた。

私には力があったらしい。

でも私には理解できていなかった。

わかるのは感覚だけ。

例えば…リンゴが食べたい。

頭に想像する。

スポン。

目の前にあるはずのないリンゴがある。

優しい人が私に恵んでくれたんだと思って食べた。

ちゃんとリンゴだった。

私と同じくらいの歳の子が泣いていた。

気になって声をかけた。


「大丈夫?」


私は泣いていたその子訪ねた。


「どうして泣いてるの?」


泣きながらその子は女の子。

大事にしていたぬいぐるみの腕が千切れちゃったと悲しんでいたらしい。


「じゃあ…その子なおしてあげたら…きみはえがおになる?」


女の子「え?」


キョトンとした顔で女の子は小さく頷く。

私はにこっと女の子を安心させるように笑顔を見せる。

ぬいぐるみと千切れた腕がくっついて元気になるイメージを想像する。


女の子「…わぁ…!」


「…はい。これで元気になったよ。」


女の子「…すごいね!ありがとう!」


女の子はニコニコと笑ってありがとうと感謝を伝えたあと走り去っていく。


「よかった…。」


感謝をされるのは好きだ。

大きくなったらみんなを笑顔にできる人になりたいと思うようになった。

いっぱい勉強して…いっぱい努力して…お世話になった人達に恩返しするために奮闘していた。

そんなに激しめな行動をしたりする方でもなく自分で言うのもおかしい話だけど私は大人しめだった。


ある時

私の力を施設の人が一人私を見ていた。

その人は私に興味を持ったのか

よく話すようになって仲良くなった

その人の名前はゼレスという

20代くらいの若い新米先生。

ゼレスは優しくてかっこよくて…でも上司?他の先生よく怒られていた。

よくドジをするらしい。

私はそんなゼレスを見て助けてあげられたらなと思ってしまった。

私はこの時、力についてもっと知るべきだった。

この力のせいで国が滅び、大勢の人々が死に絶える。

そんな大事件が起きるなんてこの時の私は思いもしなかった。



ゼレス「すみません!すみません!」


ゼレスはまたドジをして他の先生に怒られていた。

ペコペコと頭を下げて謝っていた。

思わず気になって私は聞いていた。


「もういいんじゃないですか?ゼレス先生。いっぱい謝ってます。許してあげてください。」


ゼレス「…きみは…」


先生達「君は黙ってなさい。これは大人の問題なんだ。」


私の言葉をあしらうように冷たい目線でこちらを見てくる。

けど私は…屈しない。


「許してあげてください。」


たった一言。

私は、ゼレス先生を叱っていた先生達に言い放った。

この時…無意識に力が発動していた。

ゼレス先生を助けたいという意思が力に反映したのだろう…。

先生達は先程までとは目くじらを立てながらゼレスを叱っていたのに今では何事もなかったかのように振る舞って去っていく。

ゼレス先生は戸惑いながらこちらに目をやる。

ゆっくりと近づいてきて私の両肩にぽんっと手をのせてホッとしたような顔で私に微笑んで感謝を伝えてくれた。


ゼレス「ありがとう。」


「うん。」


ゼレス先生の笑顔が見られて

ちょっと得した感じがしていた。

ゼレス先生との時間も増えてやがて

ゼレス先生は私の力に気が付き始めていくのだった。


ゼレス「あのさ…?」


「ん?どうしたんですか?」


ゼレス先生はおずおずと私に聞いてくる

それは力についてだった。

私は親しかったせいか口が軽くなっていた

信用していたからこそこの力について話をしたんだ。


ゼレス「…なるほど…イメージしたようになる力…か…。リスクとかはないの?」


「……んー…今のところまったくないよ?」


ゼレス「それはすごいな…。」


「…なんでもできる夢の力。皆を幸せにできるこの力で将来私は…。」


ゼレス「きっとなれるよ。君なら。」


「…先生…。」


ゼレス「応援するよ。隣で。」


ゼレス先生が私の小さい手を両手で包み込む。

真剣な表情で私を見つめてくるゼレス先生に目を奪われそうになるが恥ずかしさ限界でその場から走り去ってしまった。


ゼレス「……。夢の力を現実に出来る…力か…。」


ゼレスの表情がだんだんと黒く染まっていく事を私は知ることもなく。

悲劇の秒針は刻々と刻まれていったのだった。


更に数年私は16になった。

ゼレス先生との関係は順調だった。

私は禁断の恋というものをしてしまった。

告白は私からだった。

単純告白し成功した。

恋仲になった。

一線を越えるようなことはしてない

一応健全を保てているはず。


ゼレスとの時間が前より減ったのだけれど

私の力で半ば強引に時間を作る


一緒にご飯を食べたり遊んだり

嫌な顔一つせずに付き合ってくれて。

幸せな日々を送れていたと思っていた。


でもそれは私の信頼を私の力を意のままに操ろうとしていたとも知らずに私は彼に純粋な気持ちで惹かれていく。


ゼレス「…君の名前を考えたんだ。」


「名前…?」


私には名前がなかった

この孤児院では引き取り手の親となる人たちが新しい名前をつける決まりがあるらしい。

理由は過去を捨てて新しいスタートを。

孤児院が少しでも子どもたちに良い人生をと願ってのことらしいが…。

よくわからない。

名前なんてどうでもいい。

それまでは番号で呼ばれていた。

私は9番「ナイン」という仮の名前。

ゼレスはナインとは呼ばない。

ゼレスは番号呼びをあまり良く思ってなかったみたい。


ゼレス「…僕は番号でよびたくないんだよね…。」


ナイン「なんで?」


ゼレス「だって物みたいじゃん。僕はそうゆうの嫌いだな。」


ナイン「そうなんだ…?」


ゼレス「だからね…いつか君と…。」


ナイン「…ん?」


ゼレス「いや…なんでもない。」


ゼレスは少し照れくさそうに笑う。

この時なにを伝えたかったのか私にはよくわかってなかった。

でも…嫌じゃない。

わからないはずなのに。

嬉しかった。

へんなの。


そして今、ゼレスは私に名前をつけようとしている。

この意味は。

そうゆう意味だったんだと気がつく。

ゼレスは私の引き取り手になるということ。


ゼレス「……君の名前は。」


ナイン「聞かせてください。私につけてくれるんですよね?」


ゼレス「…ああ。もちろんだ。」


ゼレスは真剣な表情でこちらを見つめる

その視線が…かっこよくて…じっと見つめられるとそらしてしまいそうで。

両肩を固定されてゼレスは深呼吸をする。

意を決して告げられたその名は。


ゼレス「幻夢鏡(げんむきょう)」


幻夢鏡「げんむ…きょう…?」


ゼレス「そうだ。君の名前は幻夢鏡だ。」


私に名前初めて名前がつけられた瞬間だった。


幻夢鏡「…ふふっ…」


私は思わず笑ってしまう。

理由は簡単だ。

全然可愛くない。


ゼレス「な、なんだよ!これでもちゃんと考えたんだ!意味だってあるんだ!」


ちょっと後々になって恥ずかしがるゼレスを見て可愛いと感じてしまう。


幻夢鏡「だって可愛くないですから。」


ゼレス「ぐあっ!!」


幻夢鏡「…私も一応女なんですよ?もう少し可愛い名前思いつかなったのですか?」


ゼレス「…いやいや!可愛いだろう!」


幻夢鏡「呼びにくいですよ」


ゼレス「そ、そうか…」


幻夢鏡「…でも…初めてもらいました。名前。」


私とゼレス先生は外に出ていて

綺麗な青空が広がる空を見上げて私は満足気に笑うのだ。


幻夢鏡「…先生。」


ゼレス「…ゼレスでいい。」


幻夢鏡「……ゼレス。私ね。名前をもらったの。」


ゼレス「…そうか。よかったな。」


幻夢鏡「…ネーミングセンスなさすぎてびっくりしましたけどね。」


ゼレスは不服そうな顔を向けてくるけど。

私はそれを無視して言葉を続けた。


幻夢鏡「けどね…ゼレス。私は幸せですよ。」


ゼレス「……。」


幻夢鏡「名前呼んでくれないんですか?」


ゼレス「いや…なんていうか恥ずくてさ。」


幻夢鏡「へぇ…私につけた名前って恥ずかしい名前なんですね?…私泣きそうです。」


ゼレス「あぁ!!?ちがうちがう!!」


幻夢鏡「ふーん。」


ゼレス「幻夢鏡!」


幻夢鏡「はい!なんですか?ゼレス?」


ゼレス「俺と一緒になってくれ!」


幻夢鏡「…プロポーズですか?」


ゼレス「……それ以外になにがあるんだよ。」


幻夢鏡「…どうしようかなー…。」


私は少し意地悪をした。

困ってるゼレスの顔を見たいがために。

好きな人ほど困らせたくなるって本にも書いてあったけどこういう気持ち何だと嬉しくなる。


ゼレス「だめだったとしても親として幻夢鏡を引き取りた…」


幻夢鏡「…親として…じゃ…嫌です。」


ちょんとゼレスの唇に人差し指を置く。


ゼレス「っ!?」


幻夢鏡「…婚約者として。お嫁さんとして。私を貰ってください。」


我ながら少し過激すぎただろうか。

数秒で顔が真っ赤になる。

恥ずかしさと自分でも言い過ぎたかな

引かれてないかな!とかいらん言葉がぐるぐる脳内を回ってパンクしそうだった。


その後私達は一緒に暮らすことになった。

結婚は私が18を超えてからじゃないと出来ない。

そうゆう決まりがある。

年齢の壁は厚い…。

ゼレスは出会った当時20で私は10歳それから6年…

そして今…。

一応私は花嫁修業を頑張っている。

ゼレスはあれから孤児院の先生をやめて国に務める役員になった。

小さいけれど家もゼレスは買っていた。

大きいのが良かったらしいけど私は構わなかった。

私のためにしてくれた。

これが嬉しかった。

朝の支度は大変だった。

朝食を作るのも始めてばかりで卵焼きを作るのも困難を極めた。

心が折れかけたし力に頼ろうとした。

でも。

それじゃなんの意味もない。

自分でやり遂げるから意味がある。

私が頑張っていられるのはゼレスがいてくれるから。

この前に作った卵焼き真っ黒で食べられたものじゃなかった。

ゼレスはそれでも食べてくれた。

食べた時真っ青な顔をして慌ててゴミ箱を手渡した。

そしたらゼレスはいらないと聞かなかった。


ゼレス「これはお前が成長したときにちゃんと美味いって言ってやるために食べるんだ。だからゴミ箱に捨てたりしたくない。」


幻夢鏡「……。ありがとう…。」


嬉しかった…。

だから…やっぱり頑張りたい。

私は…この人の笑顔がみたい。


それから数ヶ月が立っていた。

私は…ちゃんと料理ができるようになった。

仕事でつかれたゼレスを迎えて食卓を囲む。

ふわふわの卵焼きをゼレスが口に運ぶ

彼はとてもうれしそうに言ってくれた。


ゼレス「美味い!」


幻夢鏡「ふふ。よかった。」


ゼレス「力使わずにほんと良く頑張ったな!すごいな!」


幻夢鏡「誰かさんの最初美味しくない!って言われたから見返してあげたかったんです。」


ゼレス「あはは…。」


幻夢鏡「でも…頑張ってよかった。ゼレスが美味しいって笑って食べてくれてるの見たら安心した。」


私が安堵しているとゼレスは先程までの表情を変えてこちらをみて話す。


ゼレス「その後の力の制御はできているのか?」


ゼレスの時折見せるこの表情に最近違和感を覚え始めていた。

ここのところはよく同じ質問ばかりされる。

なんだか怖かった。

私は表には出さないように振る舞っているけど。

不安が募るばかり。

思い切って聞いてみようと決断する。




幻夢鏡「ねぇ…ゼレス。最近なんで私の力ばかり気にしているの?」


ゼレス「……それは…。」


幻夢鏡「…正直に聞かせて。」


ゼレス「…実は…。」


ゼレスは申し訳無さそうに私に話してくれた。

内容は仕事で無理難題を押し付けられ続けていたらしくゼレスはなんとかして見返したい。そこで私の力でなんとかできないかという…複雑な話だった。


幻夢鏡「…そう…だったんだ。」


ゼレス「…心配をかけないようにしてたんだが…無意識に…幻夢鏡の力があれば…あいつらを…。」


幻夢鏡「………。」


苦しんでいる彼に気づいてあげられなかった。

私も力になってあげたい。

この力で彼が助かるなら。

私は…願ってしまった。

想像してしまった。

完璧に完全に…イメージが出来てしまった。

それが無意識を除いて。

叶ってしまったんだと。


それからだった。

ゼレスは…ゼレスじゃなくなってしまった。

仕事から帰ってきたゼレスは満面の笑みで私に昇級したことを報告してくれた。


最初は単純にゼレスの頑張りが認められて昇級したんだと思っていた。

けど…次の日仕事から帰宅した彼を見たら笑顔がなく疲れ切っていた。


無意識にまた私は彼を思ってしまう。


その次、その次…彼はやがて国を束ねる長になる。

彼は…この国アガスティアの王にまで登りつめていた。

ありえない話。

でもありえてしまった話。

前代未聞だった。

一般人が王族を差し置いてありとあらゆるカリスマを発揮し国の繁栄のために奮闘する。

やがて彼を神のように崇拝する民もできた。

変わりゆく彼を見ていられなかった。


私は…この力の恐ろしさを痛感する。

彼の勢いは止まらずやがて私を求めるようになった。

彼は国を一つしようとし私の力でそれを実現させようとした。

けれど私はそれを断った。

私が望んだ未来はゼレスの幸せはこんなはずじゃない。

私達は…幸せにただ。幸せに。

なるはずだった。


ゼレス「…そうか。私の願いが聞けないか。ならば…」


聞きたくなかった。

その顔でその声で。


ゼレス「お前なんかもういらない。死んでしまえ。」


頭が真っ白になる。

私は…。

ゼレスと幸せになりたかったのに…。

どうして…。


ゼレス「今の私には力がある。お前なんかの力なぞに頼らずともな。ふふふ。」


今のゼレスは私が愛したゼレスじゃない。

彼を殺したのはきっと…。


私はその後城の牢屋に捕らえられ数日を過ごす。

私の目にはもう…色はなかった。

考えたくなかった。

でも…現実だ。


冷たく暗く寂しい場所で一人私は眠る。


この力さえなかったらゼレスと幸せになれたのかな。


あの日…一緒になろうって言ってくれたあの言葉は夢。だったのかな。

自然と涙が溢れて止まらなかった。

息が詰まりそうで苦しくて。

恋なんてしなければよかった。

出会わなければよかった…。

こんな力なんて無ければよかった。

生まれてこなければ…。


爆音が響き渡る。


幻夢鏡「きゃ!」


見張りの兵士たちが慌ただしく動きだす。


兵士「内乱だ!お前達!手を貸してくれ!」


兵士は血相を変えて援軍を呼びに来た。

爆音は激しくなりやがてこの牢屋が崩れだしている。

このままだと下敷きなって死んでしまう。

この時…私は…なぜ死にたくないと思ってしまったのか。

力は無意識に聞き届けられたのか…。


カチャリと牢屋の鍵が開く音がする。


黒ずくめ「幻夢鏡様ですね。お逃げください。時間がありません。」


暗くてあまり見えなかったけど私を助けに来てくれたらしい。

黒ずくめは私の手をとり少し乱暴に抱きかかえながら城をあっという間に抜け出した。


黒ずくめ「幻夢鏡様。早く!ここからお逃げください!」


幻夢鏡「…あなたは…だれなんですか…?」


黒ずくめ「私は…名もなき雇われ人です。さっ…早っ…がぁ!?」


目の前で赤い血しぶきが飛び散る。

先ほどまで話していた黒ずくめをバッサリ切り裂いた。

背後に立っていたのはゼレスだった。


ゼレス「…どこの雇われ人か知らないけど…人のモノを勝手に盗ったらだめって習わなかったかな?」


幻夢鏡「…ゼレス…。」


ゼレス「あれ?なんで外でちゃうかな?だめだよ。お前はたしかにいらないけどお前が持つその力は必要だからな。」


幻夢鏡「…変わってしまったんですね。本当に…。」


ゼレス「…?」


幻夢鏡「貴方は!昔はそんな人じゃなかった!!」


ゼレス「いや…これが本当の僕であり俺であり私でもある。最初から全部全部ぜぇーんぶ!お前を利用するためさ。お前はガキだったからわかんなかったみたいだがなぁっ!!」


幻夢鏡「え…。」


本当にどうにかなりそうだ。

アレが全部…。


ゼレス「嘘」


心を読まれたようにゼレスの口角が上がる。

私には何もなかった




幻夢鏡「嘘だよね。」


ゼレス「嘘だってば」


幻夢鏡「あの笑顔も」


ゼレス「嘘」


幻夢鏡「あの優しさも」


ゼレス「嘘だよ」


幻夢鏡「あの温もりも」


ゼレス「嘘です」


幻夢鏡「あの言葉も…告白も…思い出も…。」


ゼレス「うっそでぇぇぇぇっす!!!」


悪びれることもなく彼は答えた

清々しいまでにいい笑顔で。

まるで呪縛から解き放たれたように。


幻夢鏡「………。」


ゼレス「怒ったか?まぁ怒ってももう過ぎたことだ。許せ。」


幻夢鏡「………ねぇ。ゼレス。最期に聞かせてよ。」


私の心はもうボロボロ。

目の前に映る彼に色がない。

遺影みたい。

何も感じない。

なんでだろ。

でも…。

やっぱり嫌いになれなくて。

私は…ゼレスが大好き。

私の心を埋めてくれたのはゼレスだけだった。


幻夢鏡「…ゼレス。私はね…それでも貴方のことが…。」


例え偽りの恋。

嘘の愛でも。

私が愛した最愛の人。

私もおかしいのかもしれない。

酷いことをされたはずなのに

裏切られたはずなのに。


私の足は彼へと向かっていく。

きっと間違えだろう。

きっと望んだ未来はない。

意味なんてない。

私がなりたかったモノにはもうなれない。


ゼレス「…………っ!!!」


ゼレスに近づこうとしたその時

ゼレスに突き飛ばされる。


幻夢鏡「きゃあ!!」


グチャ…。


ゼレス「……っか…」


幻夢鏡「……え…。ゼレ…ス…。」


ゼレスの体を無数の武器が貫いていた。


幻夢鏡「ゼレス!!!」


ゼレス「………っ…幻夢鏡。」


幻夢鏡「…ゼレス……どうして…。」


ゼレス「…さぁな……さっきまでは…お前を捕らえて利用してやろうと考えていたはず…何だが…な…。」


慌てて駆け寄ろうとするが

ゼレスは怒声をあげた。


ゼレス「来るな!!死にたいのか!!早く行け!!バカ野郎が!!」


血反吐を撒き散らしながらゼレスは私に叫んだ。


幻夢鏡「死ぬなら私も一緒に死んであげますよ。」


ゼレス「…お前!!ふざけっ!」


幻夢鏡「ふざけているのはゼレスでしょう!ばか!!!」


私は注意されたにも関わらずゼレスの元へ駆け寄りゼレスの治療不可能の傷を修復しようと試みる。

けれど力は発動しなかった。

何度も何度も。

きっとやり直せるまた歩き出せる。

けど…やっぱり力は発動しなかった。




なぜ発動しないのか…。

今思えば…。

彼をこれ以上苦しめたくなかったという私の思いがあったからだと思う。


夢の力は心の底から願いそれだけに集中する。

他のことなんて考えてはいけない。

それがたとえどんな思考であっても。

しっかりとイメージできなかったり心が不安定だったりすると力は曖昧になり相殺されてしまう。


今になって気がついて…後悔。

もっと早くに気がついていたらと何度も後悔する。


ゼレス「…早く行け…。」


幻夢鏡「嫌です…。」


ゼレス「…行け…。」


幻夢鏡「…いや…。」


ゼレス「…僕は君を裏切った。君の純粋な気持ちを知っていながら。」


幻夢鏡「……もういいから…。」


ゼレス「……幻夢鏡。最期に聞け。」


ゼレスはかすれた声で私に伝えた言葉。


ゼレス「…生きろ。」


静かに目を閉じた。

ゼレスは勝手で本当にどうしょうもないくらい最低でそんな最低なのはわかっていても。

私は…その願いを聞き届けることにした。


私はゼレスを後に走り続けた。

あてがあるわけでもない。

一緒に死ぬはずだったのに。

死にたくないという自分もいて。

本当に…私も勝手で気まぐれだ。


それから私の力はあらゆる国に広まり私は追われる身になった。

噂ではゼレスを殺した魔女などとそれを面白おかしく広げる者もいた。


私は逃げて逃げて生きて生きて。

宛もなくあるき続けて。

私のこの選択は間違っていたのか?

何度も自分に問いかける。


私が生きる意味。

私がなりたかった者…。


周りを見れば真っ暗で夜空だけが私を照らしている。

キラキラとして綺麗でこの空を見ている時間だけが今は幸せを感じていた。

けど…幸せはつかの間で。

国からの追手が来た。


私は追い詰められてしまう。


兵士「この魔女め!」


幻夢鏡「違う!私は…」


兵士「言い訳は!無用!捕らえよ!」


一斉に襲いかかってくる兵士。

私はもう誰も傷つけたくない…。

ゼレスのように…なって欲しくない。

だから…私は…!!!


幻夢鏡「もう誰も私に関わらないで!!!」


願いの承認。

セブンスナイツ召喚。


6つの光が私の前に現れる

それは人の姿へと変化する。


ベニアズマ「悪いがこっから先は…」


ソディ「私達が相手になろう。」


鬼のような容姿をした赤い髪の女性。

軍服のような服装をした凛々しい顔立ちをした女性が私の前で兵士たちを阻む。


兵士「貴様ら!何者だ!邪魔をするならただじゃ置かないぞ!」


スピナシア「へぇ…えらく人間風情が虚勢を張るじゃない。」


兵士「ぐあああああ!!なんだこれは!!」


スピナシア「何って龍の尻尾よ?わからない?」


地面から突き出てくる

鋭く尖った鋭利な尻尾で兵士たちを締め上げている。

彼女もまた光の一つ。


スピナシア「安心しなさい。殺しはしない。」


兵士「化け物が!怯むな!魔女を捕らえろ!」


再び兵士たちは襲いかかろうとしてきた。

すると突風がどこからともなくピンポイントで兵士たちを吹き飛ばす。


ウィンガル「…風はあなた達を呼んでいない。去りなさい。」


更に追い風が兵士たちを襲う。


兵士「うわあああああ!!」


幻夢鏡「…これは…一体…。」


ウパル「お姉ちゃん大丈夫…?」


幻夢鏡「貴方は…」


キリサキ「話は後だ。今はこの場を離脱する。」


幻夢鏡「え?…え!?」


ウパル「お姉ちゃんちょっとごめんね…」


申し訳無さそうにピンクの髪をした女の子が私の額に触れた途端視界がぼやけ眠りに落ちていった。


ウパル「皆ー!お姉ちゃん眠らせたよー!」


ベニアズマ「よし!なら儂らもきめるか!」


スピナシア「ちょっと!派手にまたやらかさないでよ?」


ベニアズマ「大丈夫大丈夫!まかせろい!」


ベニアズマが腰にぶら下げた刀を二本抜き地面に振り上げる。

瞬間地面からあふれ出る火柱で兵士たちを圧倒する。


ベニアズマ「ウパル!お帰りだ!流せぇ!」


ウパル「うん!」


兵士「今度はなんだ!!!」


兵士「見ろ!あれは…!」


兵士「津波だ!!!!」


兵士「逃げろおおおおお!!!」


兵士たちの前には大きな高波が出現し気がついたときには遅く兵士たちに直撃する。

兵士たちは勢い強い波に流されその場にはもういなくなっていたらしい。


そんなことがあったことは私は勿論知らない。

目覚めた時、あの出来事はやっぱり現実だった。

私の周りにはあの六人が。

セブンスナイツがそばにいたんだから。