旧アガスティア事変【妖大戦争】

「儂は酒を楽しく飲みたいだけじゃのに。何故…儂の酒が飲めぬのだ。」

飲みすぎですよと女狐が酒吞童鬼に口を挟む。

いちいちうるさい狐だ。

だがしかしそんな狐だが儂のいい飲み仲間じゃった。種族は違えど同じ邪の者。そんな女狐はある時ピタリと姿を見せなくなった。


人里にて女狐は自身の力で人に化けて人間どもを食い散らかしたそうだ。

儂も誘えばよかろうてと思ったがあの女狐、味を覚えたのだろう。独断で力をつけに行ったのじゃな。阿呆よな。結果蓋を開ければこのザマか。酒吞童鬼はしめ縄が巻いてあるどでかい岩に語りかけた。


九尾を封印したとされる狛犬巫女。

儂が食い殺してやろうか?いや…あの女狐がやられたのであれば圧倒的な力でねじ伏せなければやられてしまうかもだ。そんな事を考えていると背後から声がかかる。

「おい。鬼。そこで何してる。」

ピリ付いた声色で酒吞童鬼に声をかけた者の正体は狛犬巫女のコマネだ


コマネはグイグイと酒吞童鬼に近づくと眉間にシワを寄せ圧をかける。

「あんたあの九尾の仲間なの?だったら今ここで退治するわよ」

巫女だけあってかそれなりの力量はあるようだな。酒吞童鬼は鬼の目で相手の霊気(能力値)を把握するとため息をつく。

「ほお…?」

「なによ。気持ち悪いね。」


「きひひ…嫌われてしまったかの?」

「好きとか嫌いとかあんたらみたいな化け物と馴れ合うことはないわ。」

キッと嫌悪むき出しの眼差しを酒吞童鬼に向けると酒吞童鬼はケラケラとその場で笑って魅せる。

「なら拒んでみよ。」

酒吞童鬼がどこから出したのか大きな酒飲み皿を片手に自身が持つ酒をつぐ


とくとくと注がれていくお酒に何故か狛犬巫女は釘付けだった。

「なんだ…この気分は…」

酒吞童鬼の酒は香りだけでもありとあらゆる者万物でさえも酔わせる。

「飲むがいい。巫女。」

大きな酒飲み皿を安易に受け取るコマネ。目が差し出したお酒に釘付けだ。

酒飲み皿に口をつけようとしたその時だ。


「「滅!!!」」

バチチッ!雷撃のような衝撃とともに酒飲み皿は砕け散った。

小走りで何者かが巫女に駆け寄ってきていた。

狛犬巫女がもう一人いた。

姉妹だったらしい。

「お姉ちゃん!!大丈夫!?」

「大丈夫…ありがとう…コマイ…。」

もう一人の巫女は一人目の巫女より童顔で大人しそうだ。


姉妹、鬼の目を通してもわかる。

こいつが本丸か。

「コマイといったか…お前の霊気異常すぎるほど強大じゃな。何者だ?」

酒吞童鬼はまだ余裕の表情を保ちながらコマイに問いを投げかけた。

コマイは姉同様にキッとこちらを睨めつけながら言い放つ。

「手出ししておいて答えると思う?」


「それもそうか…悪かったの。なぁに力を試しただけじゃ。悪く思わんでくれ。」

「せめてお仕置きくらい受けてもらわないと困ります。」

巫女お得意の御札結界で逃げ道を塞がれた酒吞童鬼。しかし酒吞童鬼はニタァと邪悪な笑みを向けながら巫女に圧をかける。巫女にも負けず劣らずの霊気を纏う。


九尾が破れた巫女か…。心躍るではないか。こいつを殺してこいつの生き血という名の酒を飲み干せば…儂は更に高みに登るであろう。九尾よ感謝する。お前が退治されたおかげで儂も化け物らしいことまたできる。

「殺し合いだ。犬ころ風情が鬼に敵うと思うなよ。」

姉妹は体制を整えて戦闘が開始される


戦闘開始直後結界が突如として破壊される。

荒れ狂う暴風に巫女も酒吞童鬼も身動きが取れずにいた。

「誰じゃ!!今から殺し合うゆうのに水さすやつは!!!」

酒吞童鬼は怒りまくっていた。

その声と共に巫女の前から酒吞童鬼は姿を消していた。

突然のことで唖然とする巫女はお互いにホッと安堵する


酒吞童鬼が目を覚ますと大きな木に縛られていた。

「何じゃ…これ。」


不機嫌そうにしていると上から見下すように声がかかる。


「落ち着いたか?酒吞」


その姿を見ると酒吞童鬼は呆れ顔で答える。


「お前…幾年ぶりじゃな。半人天狗。」

「アンタも変らず、血の気が多いバカ鬼ね。」

「ああ?殺すぞ」


「ほーらすぐそーやって頭に血を巡らせて周りが見えておらん。」

「随分偉くなったの?クソ説教天狗。」


半人天狗。こいつは元々人間。それもこの近くじゃないが別の土地を収めていた王みたいなやつだ。そいつがなぜか知らんが酔っ払っていた儂の酒をあろうことか勝手に飲んじまったんだ。

阿呆だ。


酒に当てられ人であったこいつの魂は邪悪な力と混ざり合いこの世から忌み嫌われる化け物へと成り果てた。しかし酒を飲んだ量が少ないせいか中途半端な成り方で生まれ変わっちまった。半分人間。半分が天狗だ。まがい物だ。人間として、生きて行けなくなったこいつはもう一度儂を探し少し前まで共にいた


気には食わないが一応飲み仲間。

しかし、楽しみであった殺し合いを邪魔されたのは流石にいただけなかった。


「おい。天狗。さっきの場所まで飛ばせ。」


天狗は冷静に酒吞童鬼を止める。


「勘違いするな。助けてやったんだ。感謝しろ。」

「は?誰も助けなどこうておらぬわ!殺すぞ!クソ天狗!!」


天狗がぎゃあぎゃあと叫び散らす酒吞に痺れを切らし遂にはガキの口喧嘩のような感じになった。しばらくしてお互いに疲れ果てたのか。沈黙が訪れる。酒吞童鬼は地面にくたばっている天狗に問う。


「改めて何故水を指した。」


先程の怒り狂った声色ではなく心からの声だった。天狗は口を開く。


天狗は真剣な表情で酒吞に語りかける。巫女が結界を出した時点で敗北は決まっていたとのことだった。疑問だったのは何故そんな事を知っているのか?続けて答える天狗。


「九尾がそれで破られた」


その一言で酒吞の眉間にシワが寄る。

天狗は九尾と巫女が殺り合う所を目撃していたらしい。


天狗によれば九尾もかなりの力で巫女を圧倒していたがあと一歩のところで巫女に封印された。結界には外からのエネルギーを遮断する作用があった。九尾の力はかなり強力だったがそれは万物から人間たちのエネルギーを無限に吸収することができたからだ。つまりはエネルギーを吸えなかった。結果押し負けだったらしい。


全てを天狗から聞くと酒吞不機嫌そうに縄を解くように天狗に指示する。

天狗は警戒しながら縄を解く。


「水を指したのは悪いと思っているがお前もわかっていたんじゃないか?敵わないと。」

「そのギリギリがいいんじゃよ。人間の言葉でスリル。だったか?それを味わうには丁度いよい。」


「飲み仲間がいなくなるのはゴメンだ。」


ぼそっと天狗が呟くと酒吞童鬼はそれを聞いてニタァと笑みを浮かべ天狗に寄り添った。


「ほぉ~?お前可愛いとこあるんじゃな?」

「そんなんじゃない。ただでさえ九尾もいなくなってしまった。次にお前までいなくなると流石につまらないだろう。」


素直じゃないが天狗は酒吞童鬼にとっていい飲み仲間だと感じた。せっかくなのでと酒吞童鬼は半人天狗を酒に付き合わせ今後の話をしていくのだった。


「おい!天狗。ほれ!儂の酒呑め!」

「ちょっ!せっかくいい締めっ…あぼぼぶぶっ…」


まるで上司とアルハラ受ける新人のようだったという。

End


「儂は巫女を殺す。その時仕方ないから女狐も起こしてやる。それから…また祝杯の酒を囲むのじゃ。儂の楽しみは阿呆共と飲む酒じゃからな。」


tobe…continue…?