カラスエピソード

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漆黒の記憶



私が産まれたその場所は 小さい集落。 



【鴉の郷】と呼ばれていた。



 私は鴉の一族として 言われた通りにしてきた。


 鴉の一族。


 それは殺しだった。 


依頼された者を葬る。 


暗殺。 


つまりは…殺し屋と言うらしい。


 父、母、の教えにより素直にしたがっていたが 私には兄がいた。 


兄の名は「カラスバ」 私より2、3年。


 としが離れた実の兄だ。 


兄は私に優しくときには内緒で稽古に付き合ってくれたり、お菓子をくれたり、たまには怒られる覚悟でイタズラしたりと兄妹共々仲がよかった。 


そんな兄が掟に背き私に兄の殺しの指令が下る。



 カラツギ「カラスバを殺れ」



 カラス「しかし…父さん!私は兄さんを殺したくない!」



 ヨスガ「黙りなさい!カラス…あなたもこの家に産まれた以上ここが掟なのよ。」



 母、ヨスガは冷たく私に告げる。



カラス「なぜ家族で殺しあわなければならない…。」



カラツギ「掟だからだ。」



ヨスガ「この掟は鉄の掟。決して逆らってはならない。」



カラス「そんな掟間違っている!」



カラツギ「残念だ。」



私は…とても未熟だった。


カラツギの殺気を感じ取れなかった。



カラス「えっ…。」



目の前には…刃を振り上げる


カラツギが私の目の前に映る


防御が間に合わない。


その時だった。



カラスバ「カラス!!!」



颯爽と一陣の風がその場に吹き荒れる。



カラツギ「来たな…罪人…だが…遅い。」



カラスバ「ぐああああっ!!?」



ざくしゅ!!!



何かを切り裂く音がはっきりと聴こえた。


目の前に広がる飛び散る血しぶき。


ドサッとその場膝をつく兄カラスバ。



カラス「兄さん!!!」



ヨスガ「やっぱりきたわね。このでき損ない。」



カラスバ「から…す…にげろっ…追撃が来る…。」



カラス「にぃ…さ……」



カラスバ「お前はっ……生きろっ…。カラス。」



カラス「兄さん!!!」



カラスバ「うおおおおおっ!!!」



カラツギ「我が息子にして…罪人に成り果てた。我一族の面汚しが。せめての情け。痛みなくして散るがいい。」



カラスバ「っ!!!」 



私は…血を流し命を削る兄を見ていることしか出来ない。


私は…どうしたら…。


思考している余裕などない


今…兄さんはカラツギと戦っている


だったら…



私は…邪魔にならないようにこの場を去るしか…。



ヨスガ「ねぇ…?カラス私もいるの忘れてないわよね?」



音もなくその声は背後にある。


振り向いたら終わりだ。



ヨスガ「ねぇ?カラス今カラスバを殺せば貴方の罪はなかったことにしますよ?いい子だから…」



カラス「私は!いい子なんかじゃない!母さんのようにはならない!!私は私の道を行く!!」



ぶしゅーっ!!!



ヨスガ「なに!?」



ものすごい勢いで


煙が噴射され家内に煙が立ち込める。



ヨスガ「…小賢しい!」



カラス「母さん!私は…今より罪人カラス!ここから出ていきます。追ってくるなら構いません。ただし悪あがきはしてみようと思います。」



ヨスガ「…そう。…残念だわ。」



私が今出来ることそれは…


一対一の戦況を作ること!


だから!


ここは…外へ!!


ものすごいスピードで空を飛翔していく。


可能な限り遠く遠く。



ヨスガ「…ちっ…いいわ…。カラツギ様」



カラツギ「わかっている。お前はカラスを仕留めろ。俺も後でいく」



ヨスガ「カラスバ。おやすみなさい。」



カラスバ「待て!!」



キィィィン!!



カラツギ「お前の相手は俺だろう。カラスバ。」



カラスバ「っくそ!」



父と対峙するのはいつ頃だ…


瞬間感じる圧倒的空間支配。


ただならぬ殺意が意識ごと狩りとるみたいだ。



カラツギ「お前は…ここで殺す。」



カラスバ「………。」



父は一瞬で背後に迫る。


一瞬でも気を抜くな。


一瞬でも目を背けるな。


相手はプロ(殺し屋)だ。


悩むな。


殺れ!


殺るしかないんだ!


四方八方から


殺意が漂う。


無数の針が俺に向かって飛んでくる。


かわすこともままならない!?


さっき斬られたのが…効いて…



カラスバ「うぅっ…これは…」



カラツギ「………。」



視界が霞む。


ぐにゃり…


気持ち悪い…


体が…つめたい…。



カラツギ「…私が手を下さずともお前は毒で死ぬ」



カラスバ「……くっ…。」



カラツギ「…次は一瞬だ。」



その瞬間空気が重たくなる


カラツギの殺意が極限まで研ぎ澄まされている


体が固まる


まるでヘビに睨まれたカエルのように動けない。



カラスバ「…くそ…が…」 



カラツギ「無駄な足掻きだ。」 



カラスバ「無駄…なんか…じゃねぇっ…」



カラツギ「………。」


(巨獣も仕留める猛毒を塗ってある針でここまで…)



カラスバ「……っ…!」



カラツギ「…いいだろうこれが最後だ。」



カラツギが倒れるカラスバの目の前に立つと


短刀を振り上げとどめを刺しに来る


カラスバの脳天目掛けて短刀は振り下ろされた。



カラツギ「…死ぬがいい!カラスバ!!!」



ブンッ!!



カラスバ「この時を待っていた。」



 ガシッ!!! 



カラツギ「なに!」


(こいつ!…やはり…なにか対策を!?)



 カラスバ「さあっ地獄にいきましょうや。…この呪われた一族に終止符を!!!!!!!」



 体中にありたっけの爆薬を巻き付けて点火する。 



じりりりり…



カラツギ「ぐっ!!!はなせ!!!」



暴れるカラツギに必死で掴みかかるカラスバ



 カラスバ「お前だけでも道連れにしてやる!!」



しかし…


ニヤリとカラツギの表情に笑みが浮かぶ。



カラツギ「ふ…本当に追い詰めたと思うか?」 



カラスバ「なんだと!?」



ザクッ!ザクザクザク!!!



背中に無数の短刀が突き刺さる痛みがカラスバを襲う



 カラスバ「あ"ぁっ!!?………ぁ…」


 (なんで……。)



 カラツギ「お前が見ていたもの全て幻術。お前は気づけてすらいなかったがな。」



 カラスバ「ぁっがはっ……」 


(……俺は…なんのために…。カラス………) 



カラツギ「……眠れ。」



 ドサッ! 



何本もの短刀に貫かれ声も出せない。


 冷たくなる体…。


 情けねぇ……。


 俺は薄れ行く意識の中のカラスとの思い出が 脳裏にフラッシュバックする。 





カラス(幼少)「カラスバお兄ちゃん! これ!お兄ちゃんが喜ぶと思って! 」



幼少の頃


俺は本を読むのが好きで


それを見ていたカラスは俺に押し花の栞をくれたんだ。


幸せを運ぶよつ葉のクロバと呼ばれるここらではなかなか見ない植物。


元々は3枚の葉だけだが極稀によつ葉のクロバが咲いているらしい。



カラスバ(幼少)「おまえ…これ…よつ葉のクロバじゃないか!」



カラス(幼少)「えへへ…。私もお兄ちゃんみたく本を読んで勉強したんだよ!そしたらこのよつ葉のクロバは幸せを運ぶって書いてあったから!お兄ちゃんにはいつも助けてもらってばかりだから…お礼…したくて。」



カラスバ(幼少)「…カラス…。ありがとうな。めちゃめちゃ大事にするよ。」



カラス(幼少)「うん!!」



妹の笑顔は大きくなるたびに消えていった。


俺は…それがとても嫌だった。


だから…。





カラスバ「…っ…。」



声は出せない。


 体も動かせない… 動かせないんじゃない。


 動こうとしていないだけだ。


 あの…カラスの笑顔が血で染まるだと… ふざけるなよ… 俺は妹一人守れない。 


情けない兄貴でいいのか。


 いい…わけないだろ…!! 動けよ!! 俺の体!!! 



カラスバ「…………。」 



よろめくからだ。 


生まれたての子鹿のようだ。 



カラツギ「その傷で…立ち上がるか…。」 


(あり得ない… あれほどの傷を追ってもなお… 立ち上がる その執念。認めざるを得ないな。)



 カラツギ「認めてやろう。その執念は本物だ。だから…今度こそ殺………っ!?!!」 



シュパッ…


ぼとん…



カラツギ「…ぐっ…!?」


(何が起きた…!?この一瞬で私の腕が切り落とされた…だと。 )



たしかにその場にいたカラスバの姿がなかった。



カラツギ「貴様…っ!!!?」 


(は、速い!速すぎる…っ!さっきとは桁がちがう…。) 



カラスバ「…………!!」



ざくしゅ!



カラツギ「………ぐあ…っ!?…」 



振り向いたそこには…修羅と化した カラスバがいた。 



カラツギ「貴様…先程と別人だな…。」 



カラスバ「…………。」 



カラツギ「言葉を交わさぬか…なら!」 



一気に高速化する 


人の目では到底とらえることが出来ない


 速度で戦闘が繰り広げられる。 



キンキンッ!!! キンキンッ!!!



 カラツギ「ぜりゃああああああああああ!!!」 



カラスバ「…………っ!!!」 



この殺意 


この熱気 


この鋭い勘 


今までのカラスバではあり得ない 


覚醒したとでもいうのか…。


 剣術もみたことがない…。 



カラツギ「ぬああああああああああああっ!!!!!」



 ガキィィィィィィィィィィンッ!!!!



 剣と剣を弾きあい 互いの剣がくだけ散る。


 その刹那。 


再びあの手この手で先の読みあいが始まり戦闘が続く。 



カラツギ「…ぐぅっ!!!!」


 (この俺が…押されている… 手負いのカラスバに… ふざけるなよ!! )



カラスバ「…………っ!!!」 



カラツギ「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」



 キンキンキンキンキンキンキンキンッ!!!! 



カラスバ「!!!!」 



互いに距離を取り殺意を研ぎ澄ます。 



カラツギ「………っはぁ………はぁ…。」 



カラスバ「…っ…………。」 



カラツギ「…………っ」


(立っているのが限界であろう…。カラスバ…お前は…。 )



カラスバ「………。」 



しばらく睨み合いが続いた


そして…


勢い良くカラツギが短剣を構え


カラスバの首目掛けて横薙ぎ


カラスバの視界に映らない速さで


切り裂いた。



カラツギ「…………。死ね!!!カラスバ!!!!」



シュパッ!



カラツギ「…この程度か…あっけなか…………っ……。」 



ドサリ… その男の首が地に転がると同時に体から切り離された胴体がその場に倒れ込んだ。



 カラスバ「…………あんたの…敗因は…俺を甘く見すぎた事だ…。」 



幻術返し


カラツギの奥の手…幻術


上書きするにはタイミングが必要だった。


まさにギリギリだった…。


この技はいかに対象者を騙すか気づかれないか


先手でかけておいてよかった


でも…この技は精神と寿命を圧倒的に削る技であり


禁術…。


カラツギは…禁術の使い手


本当…そこがしれないやつだった。


俺は意識が朦朧とするなかゆっくりと歩き始める。



カラスバ 「無事でいてくれ…カラス…。」 






ヨスガとの対峙



私はただ走る


この先に何があるのかもわからないまま。


 ひたすらに前へ進む。



 ヨスガ「何泣いてるの?カラス?」 



カラス「っ!?」


 (いつの間に!?)



 間髪いれずに母からの攻撃をまともに受けてしまう。



カラス 「がっ……!?!」



 勢い良く地面に叩きつけられる。 



カラス「うっ…あっ………。」 



ヨスガ「あら…一撃で仕留め損ないましたわ…あの人に怒られてしまいますわ。」



 母は余裕な表情でこちらに向かってきている。



 逃げるか…


 逃げるのか… 


私は…今逃げても 戦闘は避けられない。


 兄さん。


 兄さんも戦ってるんだ。 


 なら…。 


私が母を倒して兄さんを助けに行けばいいだけだ。


 体の節々はさっきので少し痛むか…。


 近づく母からただならぬ殺気。



 ゾワッ… 



カラス「……っ…」



ヨスガ 「あら…逃げないの?カラス。」



 足が震えている…。


 く…くそ! 私はとっさに足にクナイを突き刺した。



カラス 「…ぐっ!!!」



ヨスガ 「え?なにしてるの?カラス」



カラス 「………はっ…はぁ……。こうでもしなきゃ……母さんと戦えないから…。」 



ヨスガ「…へぇ…。…じゃあ…本気なのね?」



カラス 「…手加減とかしてくれないだろ?…どうせ。」



ヨスガ 「もちろん!…全力であなたを殺すわ。」



 満面の笑みで母は答えた。 


その瞬間。


 互いの殺意が空間そのものを歪ませる。


 聞こえるのは風の音のみ。


 鋭い眼光と気配だけを頼りに戦闘が始まる。



ヨスガ 「さぁ…あなたの力どれほどか…。見せてみなさい。」 



カラス「いわれなくても…そうする!!!



先手必勝! 私は母に仕掛けた。


 近接戦。 


母の間合いに入る。


すかさず小刀で斬撃!! 


しかし スッ…と空を切るように避けられる。


 次の瞬間 カウンターがくる! 殺気が感じ取れる。 


ぎりぎりかわす! 



カラス「っ!!!」



ヨスガ 「えいっ!」



たった一振 たった一振で木々をなぎ倒す威力…。



カラス 「……く…っ!」 


(距離を取らなければ!)



ヨスガ 「…どこ行くの?また鬼ごっこかしら。」




カラス「………っ!!!」


( 走れ!!!)



ヨスガ 「…逃がさない!…はぁっ!!!」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! 


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!



 足場が壊されてうまく距離を取れずに地面に着地してしまう。


 なら! 私は上空戦に誘い込む。



カラス 「多重手裏剣!!!!」



 私は上空から攻撃を仕掛けた。



 シュバババババババババババババババババババババババババババババババ!!!!!!!



 ただの手裏剣じゃない。


 これは…起爆符つきだ!!!



 カッ!! と光だしたあとにものすごい爆音と爆風 烈火のごとく立ち上る火柱。



カラス 「…これなら…」 



ヨスガ 「…ずいぶんとやってくれたわね。」



 背後!? 気配がまった… 



カラス「ぐっ…あぁっ!!!!」



 首をぐっと捕まれる。


 なんて力なんだ… 



ヨスガ「ふふ…捕まえた。お気に入りの着物が汚れてしまいましたが…あなたの命で許してあげますわ。」



 そう告げるとさらに首を絞める力が強まった。



カラス 「ぐっ……あああっ!!」


(意識が… )



その時 誰かの声が聞こえた。 



カラス「黒翼!一閃!!!」 



漆黒の翼を羽ばたかせ愛刀黒翼(こくよく)に自身のエネルギーをのせ黒き一閃を放つ。 



ヨスガ「な、カラスバ!?…まさか…あの方が…ああっ!!?」 



黒翼一閃が母に直撃する。



 すかさず 俺はカラスを奪還。



カラスバ 「カラスは返してもらう!」 



カラス「兄さっ……」 



カラスバ「カラス!大丈夫か!…っ…まだ油断はできない…。気を抜くな。」



ヨスガ 「なかなか痛かったわ…。」



カラスバ 「…やはり効いていないか…。」 



カラスバ「二人でやるぞ!」 



カラス「殺す…ってこと…?」



カラスバ 「………そうだな…。」



カラス 「私は…殺したくない…。」



カラスバ 「カラス…。」 



ヨスガ「カラス…だからあなたは甘いのよ。」



カラスバ「しまっ!!!」



 カラスの背後にヨスガの刃が迫る



カラスバ「っ!!!」


( あれはまずい!! カラスが確実に死ぬ!!!) 



ヨスガ「死になさい!」



 振り下ろされる斬撃 大量に飛び散る血しぶき



 ザクシュ!!!!



カラスバ「ぐぅっ!!!!」



 私の目の前が紅く染まる 



カラス「兄さん!!!!!!」



ヨスガ 「ふふ…カラスバ。眠りなさい。」



 ぶしゃああああああ!!! 



カラスバ「……………っ………。」



兄さんはそのまま地上に落下していく。


 私はその後を追おうとするがヨスガが前に立ちはだかる。



カラス「にいさっ!?」 



ヨスガ「…次はあなたよ…カラス!!!」



カラス 「くっ!!!」 



容赦ない剣さばきで 攻めよってくる母に対して ギリギリを弾き返す 攻防戦が激化する。



 キンキンキンキンッ!!! 



カラス「なぜ!!なぜなのですか!母上!なぜ…こんなこと!!!っ!うっ!!やああっ!!」



ヨスガ 「…それが一族のおきてだからよっ!!ほらほら!いつまでも耐えられるかしら!」 



カラス「ぐあぁっ!!」


( は、はやい…さっきより段違いに速度が上がってる…! このままじゃ…押し返される…兄さんまで巻き込んでしまう…。 やるしか… 母を殺るしか…。 ないのか…。 私は……。 )



キィィィン!!!



回想-母との思い出-



カラス「母上!見てください!花火がとても綺麗です!」



ヨスガ 「まぁ…本当ね。とても綺麗だわ。」 



カラス「母上の着物も花火の模様です!つまりはとても綺麗です!」



ヨスガ 「そうね。ええありがとう。カラスちゃんの目にも花火がうつっててキラキラしてるわ。」



カラス 「そうなのですか!母上!母上の目きらきらしてておそろいです!」 



ヨスガ「お母さんはとても幸せだわ。」 



カラス「カラスも母上と一緒で嬉しいです!母上!大好き!」 



ヨスガ「ええ。私も愛してるわ。大好きよ。カラス。」



脳裏に焼き付いているこの思い出…


母さんは…忘れてしまったのか…。



キィィィン!!!



刃を交わすたびに流れてくる



カラス「私は!!母上!!あなたを殺したくない!!!」



ヨスガ 「…そうですか。なら…ここで死んでください。」 



強烈な突きが私の腹部に直撃する。



カラス 「ああああああっ!!!」



そのまま一直線地面に叩きつけられる。



カラス 「…くっ……。」



 スッ…と首もとギリギリに向けられる刃先。



ヨスガ 「カラス。この世はどうにもならないことだってあるんですよ。私がそうであったようにね。」 



カラス「母上…」



 ヨスガ「…少し話をしてあげましょう」



 母にも姉がいたようだ。 


母の姉も兄さんのように掟を破り 一族の掟にしたがい。


 妹である母上自ら手を下したという。



ヨスガ 「もちろん…嫌だった。姉さんは素敵な方だった。私の自慢の姉さんだった。…でも。圧倒的な力の前では無力そのものよ。…殺さないのであれば…と…あの方が動いた。」



 姉さんを殺しに行った私は 姉さんを殺すことができなかった。


 姉さんは殺しにきた私でさえも許し 手をさしのべてくれた。


 でも…私は姉さんさえ元気で生きていてくれれば…それで良かった。


 だから私は。



ヨスガ 「姉さん。私は返り討ちにあったってことでなんとか伝えるから。姉さんは早くこの郷からもっと遠くへ行って。」 



ハルカ「しかし!お前をおいては!」 



ヨスガ「いいから!!」



ハルカ 「……必ず…必ずお前を迎えに行く!!!」



 姉さんを逃がした私はおそらく殺される。


 私も姉さんほど優れていないけど…。


 間違えなく感じる。


 四方八方からの圧倒的な殺気。 



ヨスガ「最初から…信用されていなかったみたいね…」



 追手「…お前も裏切り。よって処分する。」 



10人…ってところですか…。 



ヨスガ「多勢に無勢… けど…私も簡単には殺られないように 鍛えられてますから…。」



追手「すぐに終わらせてやる。」



 ヨスガ「ここから先は…何人たりとも通しません…命を懸けてかかってきなさい!!!!」



その後 私は戦って 戦い続けて。 


最後の一人を。



ヨスガ 「はあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」



 ザクシュ!!!! 



追手「ぐあああああああああああああっ!!!」 



ドサッ… 



ヨスガ「……っはぁ…あ………っ………姉さん……やったよ…。」


(うまく逃げられたかな…)



ヨスガ「私は… 姉さんの力に…」



 カラツギ「お前の姉か…」 



ゾワッ!!?



 今までにない…圧倒的な死を感じる


 いや…殺気…。


 体が…動かない……。



 カラツギ「これはお前が全部したのか。」



ヨスガ「だったらなに…あなたは私を殺しにきたんでしょう。」



カラツギ「いや…こいつを。」



 ドサッ… 



その場に見るも無惨な形の姉が倒れている。 



ヨスガ「ねぇ…さん…っ……。」 



カラツギ「まぁ…良く頑張った方だろう。本当なら跡形もないところだ。」 



ヨスガ「……き、貴様ぁあああああああ!!!!」



 私は怒りまかせに斬りかかる。



 カラツギ「…まだ動けるか。…お前は俺の伴侶にしよう。」 



ヨスガ「ふざけるなああ!!!」



 カラツギ「ふざけてなどいない。一族存続のため必要なことだ。」



ヨスガ 「黙れ!!よくも姉さんを!!!」



 カラツギ「…いい加減…うざくなってきたな。」



 シュン…



ヨスガ「…!!?」


(消えた…!?)



 カラツギ「ふんっ!!!」



 ドスッ!!!



 腹部におもい一撃。 



ヨスガ「…がっ…………。ねぇ……さん…。」 



そこから意識が闇に落ちた。 


次に目を覚ました時には 暗いくらい懲罰室だった。


 最初はどこだかわからなかった。


 でも…いやでもわかった。 


血だらけてボロボロの姉さんが一緒にいた。



ヨスガ 「姉さん!」 



ハルカ「………っ……。」



 姉さんはもう…むしのいきだった…。


 コツコツと誰かがこちらに向かってきている。



カラツギ「目が覚めていたか。」



ヨスガ 「貴様…っ…なにしにきた…私たちをどうするつもりですか。」 



カラツギ「わからないか。罰だ。」 



ヨスガ「罰…なら私が受ける。だから!姉さんには!」 



カラツギ「そうか。ならお前への罰は実の姉をここで殺してやることだ。」



ヨスガ 「え…。」 



カラツギ「殺せぬのならその者には死よりも苦しい拷問が死ぬまで繰り返される。死なない程度に痛め付け。自身から殺してくれと願っても死ねないという。永遠の苦しみを与える。それが…この者への罰だ。」



ヨスガ 「そんな…そんなのって…」



ハルカ 「………っ……ころ……して…。」



 かすれた声で姉さんは私に頼む。



ヨスガ 「…姉さん…っ……ごめん…なさい…私が…未熟な…ばかりに…」



 ハルカ「ごめんね…ヨスガ…お姉ちゃん…約束…守れなくて……。あなたと一緒に外の世界を……見たかった…。」 



ヨスガ「…姉さん……。」



 カラツギ「これで心臓をさせ。」



 ひょいっとこちらに投げ捨てられた小刀。


 私はそれを手に取る。 



ヨスガ「私は少しでも可能性があるなら…。それを信じたい。…あなたに勝てば私たち姉妹を逃がしてくれませんか…。」



 カラツギ「いいだろう。…全力でこい。負けたときは俺の言うことは絶対服従だ。」 



ハルカ「…やめな…さい…っ…あなたでは……。」



ヨスガ 「…姉さん。…私は少しでも…長く姉さんと居たいから…姉さん…見てて…。」 



ハルカ「………まっ…ちな…さ……っ…」



 姉さんを安全な場所に寝かせる。 



カラツギ「終わったか。」



ヨスガ 「ええ…。待ってくれて感謝します。」



 カラツギ「…死に行くものに感謝されても困るだけだ。」 



ヨスガ「…たしかに…あなたは強い…。食らいつくことくらい…せめてこの命!大切なもののために!私は散っていきたいから!!」



 私は走る。 



ヨスガ「はああああああああああああっ!!!」



 ああ。


 わかる。


 これは死ぬ。 


勝ち目なんて最初からない。


 上には上がいる。


 こんなのって ほんと ふざけてる。



 カラツギ「哀れだ。」



振り上げられた刃


防ぐことは不可能


 完全に死んだ…そう思った。



 ぶしゃああああああ!



 飛び散る血しぶき


 時がゆっくりと進んだような スロウモーション 



ハルカ「………っ!!!……」 



目の前に姉さんがいる。


 真っ赤に染まる。



ヨスガ 「ね、…ねぇさぁんっ!!!!」



 姉さんは…ただ優しく私に微笑む。



ハルカ「あなたは…生きて……っ………。」 



私に倒れかかる姉さん どくどくと溢れだす血。


 なまあたたかい。


 姉さんの鼓動が聞こえなくなった。 



私はただ…目の前の現実を…受け入れたくなかった。 



カラツギ「この剣に反応できたのは貴様が初めてだ。誉めてやろう。…まぁ…もう…聞こえないだろうが。」



ヨスガ 「……………。」



 カラツギ「命拾いしたな。お前の負けだ。」



ヨスガ 「まだよ…。……まだ。」



 カラツギ「もう決着はついた。」 



ヨスガ「私を殺せ…。殺せよ!!!」



 カラツギ「言っただろう。俺の勝ちだと。」



ヨスガ 「…っう…ぅ…うわああああああああああ!!!」



 小刀を手に取り斬りかかる。



 ガシッ!!! 



簡単に防がれてしまう。 



カラツギ「………お前は俺の伴侶になる。約束は約束だ。」 



ヨスガ「誰が…あなたみたいな人と!!」



 カラツギ「…仕方ない…なら………。」 



あの方の攻撃は幻術だった。 


精神的苦痛 


私は…身動きが取れないまま 


なんどもなんども 


最愛の姉を殺され続ける幻術を見せられ続けた。



ヨスガ 「…もう…やめて…ください………。」



 カラツギ「俺の伴侶になるか。女。」 



ヨスガ「…はい…。」



 この時…私は思い知りました…。


 圧倒的力の前ではなにもできない 。


可能性などないんだと。



カラス「母さん…。」



ヨスガ「だから…私はあなた達兄妹を憎みました。あなた達だけが幸せになるなんて…許せなかった。私も…姉さんと…。だから……殺します。」 



カラス「母さん…。私はあなたのこどもです。母上の姉妹に対する優しい思いは私にも引き継がれています。私が兄さんと生きたいと願うように。…私も…ここで戦わなきゃ…いけないんです。」



ヨスガ 「……知ったような口を…この状況で私に勝てるかしら…。」 



カラス「勝てますよ。」 



ヨスガ「…なんですって……やってみなさい!」



 首もとに向けられた刃が動いた。


 その瞬間。 



ぼふーっ!!! 



勢い良くその場に黒煙が広がる。 



ヨスガ「…っ!!くっ…これは…煙幕…っ…」 



カラス「母上…。私はあなたの過去を知り。感じました。あなたのその思いは素敵だった。」



ヨスガ 「お前に…私の何がわかる!!!」 



カラス「わかりますよ…。私も妹ですから。」



ヨスガ 「っ!!!?」 


(いつのまに!気配が…全く感じなかった…)



 カラス「形勢逆転です。もう…やめましょう…母上…。こんな意味のない戦い。誰が得をするのですか…。」



 首もとにクナイを突きつけられる。 



ヨスガ「…わかりません。でも…それでも…私にはもうなにもありません。…だから…っ」



 グサッ!!!



 お互いの体を刃が貫いた。



カラス 「……うっ……がはっ………。」



ヨスガ 「…最初から……っ……うっ……こ、う…すれば…良かった………。」



カラス 「…っん!……はぁっ…ぁっ…が…。」 



ヨスガ「……ハルカ…ねぇ……さん……やっと………あえた…。」



 母さんの鼓動が止まる。



 私も…意識が…。


 道連れの…攻撃を…するなんて…。


 兄さん…。 


せめて…兄さんのそばで………。


 倒れる兄さんが見えるのに…。


 届かない……。


 兄さん…。 


ごめんなさい…せっかく…助けてくれたのに…。


 ああ…こんな…終わり……。 


くそくらえ…だ…。


 兄さん…。


 薄れ行く意識のなか這いずり回った体はもう冷たく瞳には光がない。


 私は…死んでしまった。





黄泉の空間




私は…死んだのか…。 


意識だけがふわふわとしている感じだ…。



 ?「おーい。おきろー?」



 カラス「…なんだこの声…だれだ…。」



 ?「カラスちゃん。起きてってば。」



カラス 「…ん……だれだお前…。なぜ私の名前を…。」 



?「あー毎回毎回。このくだりめんどくさくなってきたんだけど…。」



カラス 「ならしゃべるな」 



ほしおじ「ほんと容赦ないね。君…。まぁとにかく…僕の名前は星のおじさん略してほしおじだ。」 



カラス「…胡散臭い。」 



ほしおじ「あからさまに嫌そうな顔しないでくれたまえ。」 



カラス「無理。」



 ほしおじ「…なんか恨みでもあるのかい?」 



カラス「べつに。…なんで私は生きている」



 ほしおじ「いや。君は死んだ。けど僕がその魂を掬い上げた。」 



カラス「意味がわからん。」



 ほしおじ「…君には幸せになる権利がある。」 



カラス「さっぱりわからん」



 ほしおじ「かくかくしかじかで…」 



カラス「……余計なお世話だな。私は兄さんと…」



 ほしおじ「カラスバくん。君の妹さん頑固すぎないか?」 



カラスバ「頑固ではない。可愛いだろ。」



カラス 「……に、兄さん……。」 



カラスバ「…カラス。また会えたな。」



カラス 「………………っ…!!!」



 がばっ!!! 



カラス「兄さん!!!」 



カラスバ「…うぉっ!?…カラス…ただいま。」



 ほしおじ「…あいたた…。まったく…扱いがひどいな…やれやれ。」 



カラス「兄さん…私なにもできなくて…。」



カラスバ 「いいんだ…俺もなにもできなかった…。お前を巻き込んでしまった…。」 



カラス「…かまわない…また…会えたんだ。…よかった…。」



カラスバ 「…ああ。そうだな。」



 ほしおじ「…おなかいっぱいだよ…まったく。」



カラスバ 「…カラス。ほしおじさんは俺をここによんでくれたんだ。だから…今の俺がいるのはこの方のおかげなんだ。」



カラス 「……そう…ですか。…先ほどは失礼しました。…兄さんと会わせてくれてありがとうございます。」 



ほしおじ「…ああ。君たち兄妹にはやってもらいたいことがあるんだ。」 



カラス「やってもらいたいこと…?」 



ほしおじ「君達にはいくつもある世界の中の一つ黒上いぬこという特異点がいる世界へ転生してもらう。」



 カラス「…黒上…いぬこ。」 



カラスバ「そこへ行って何をすればいいんだ?」 



ほしおじ「…世界を救ってほしい。」



 カラスバ「世界を救う…?」 



ほしおじ「その世界にもう何人もの君達以外にも各世界線から掬い上げ、スカウトした。人材を多数送り込んでいる。」



 カラス「私たち以外も…だと。」



 ほしおじ「結論から言えば…近いうちその世界が滅んでしまう。…それをぼくは防ぐ役目をおっている。」



 カラス「いったい何が起きるんだ。」



 ほしおじ「…まだそれは言えない。ただ時間がない。ぼくは世界が滅ばないようにまだまだその崩壊に対抗すべく人材を集めなければならない。…時の流れはあちらではまだまだ猶予はある。」



 カラスバ「…とりあえず…その世界にいきその崩壊とやらを防げばいいんだな?」



 カラス「…胡散臭い」



 ほしおじ「…とにかくだ!その世界に行って黒上いぬこと他の仲間達と手を取り合い迫りくる崩壊を止めてほしい!ということだよ!」 



カラス「そもそも…あなたは何者なんだ。」 



ほしおじ「ぼくは星のおじさん。ただそれだけ。ほら!行った行った。ゲート!」 



ぶぅん…。



 空間にぽっかりと穴が空く。



 ほしおじ「そこに飛び込んだらすぐだから。」 



カラスバ「悪徳セールスみたいだ。」 



カラス「例えが濃いぞ…兄さん。」 



ほしおじ「…疲れるからはやく!あ、あとここでの話しは他言無用ね。」



 カラスバ「…わかった。」



 カラス「…ふん…。」 



カラスバ「カラス。いくぞ。」 



兄さんは私の手をつなぎ笑いかけた。



 カラス「はい!兄さん!」



 私たちはその穴に飛び込んだ。 


この先に何があっても兄さんとなら きっと。 




ほしおじ「……この数値は…いや…気のせいだろう。次の協力者を迎えに行かなければ…。」




次回【零却寺プロジェクト】星の欠片集



【うみうしマリン編】



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コメント: 2
  • #1

    カラス (土曜日, 25 5月 2024 23:08)

    何故か私たち影が薄く感じるんだが気のせいか?

  • #2

    カラスバ (土曜日, 25 5月 2024 23:09)

    いや、俺達はそもそも闇に生き闇に潜む者として今までやってきたんだ。変わりはないだろう。