うみうしマリンエピソード

悪魔の実験



私は不幸なんだろうか…?



小さい集落に生まれた


私の父と母はとても優しくて


いい人。


いい親で恵まれていたんだと


この時思った。



カザ「シズ…いつもごめんな…」



父が申し訳なさそうにこちらを見て謝る。



シズ「謝らないで仕方ないよ。体がお父さんもお母さんも弱いんだから。ゆっくりしててね。」



私は父ににこりと心配かけないように笑う。



スズ「シズに迷惑かけてばかり…私たちは親として…情けないわ…。」



続けて横になる母が残念そうに語った。



そんなことはない


あるはずがない。


私はこの二人に愛されて育った。


私は二人の子どもで幸せだった。



シズ「お母さんもお父さんも私は大好きだし、私は私が出来ることしか。してあげられないから。二人が抱えてる痛みも苦しみも…私じゃ変わってあげられない。だから…早く治るように…っ…。」



二人は優しく


私を抱きしめてくれた。


二人ともすごく痛くて苦しいはずなのに。



カザ「ありがとう…」



スズ「ありがとね…」



カザ「お前が俺たちの子どもでよかった。」



スズ「そうね…ただ…私達がこんなじゃなければ…きっと…もっと。幸せに…っ…。」



シズ「大丈夫だよ…お母さん。私すごく幸せだよ。」



二人に抱きしめられた


その温もりにあてられてか…


私は無意識に涙が溢れだしていた。



私もこの二人と


この家族との幸せな何でもない日常を見たいと強く強く思ったのだ。


なにも出来ない…


自分は二人を助けることが出来ない。


悔しい…。


私がお医者様になったら…二人を。


家族3人でまた幸せな日々を過ごせるのかな…。



暗がりの部屋


私達家族は互いに抱きしめ合い。


しばらく泣いていた。



最近、集落で嫌な噂が広がっている。


いや…この噂は…。


謎の集団に子ども達が拐われる。


集落では


その話で持ちきりだ


集落は集落でも小規模であり


村の子どもは繁栄のためにとても重要


それが…



村人A「なに!?」



村人B「またなの!?」



村人C「おまえさんちの子も!?」



噂は噂でなくなってきていた。



シズ「………。」


(私もまだ幼いし…警戒はしておいた方がいいかな…。)



ナヅナ「あ!?シズちゃん!」



近所のナヅナおばちゃんが私に声をかけてきた。



ナヅナ「シズちゃんもしばらくは森に近づいちゃダメよ!」



シズ「もちろんだよ!ありがとね!」



私はナヅナおばちゃんにニコリと笑うと駆け足でうちに戻った。



その日


緊急で村全員が広場に集められた。


内容はあの噂だった。



そう…


子ども達は帰っては来なかった。


もうかなりの子ども達がいなくなっていた。


これは本当にまずい状況だと判断。


村総出で集落周辺の警戒。


子どもの安全を最優先にと臨戦状態。


緊迫した空気の中、私は…すごく不安になった。



次は私かもしれない。



恐怖を隠しきれなかった。



とある研究施設にて



ミネルヴァ「…またこいつもダメだ…」



拐われた子供「…あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”っっっ!!!!!」



ミネルヴァ「……こいつもか…。」



何度繰り返しても同じか。


俺はこの実験で支配する。


俺が…私が…神になるんだ。



男はニヤリと邪悪な笑みを浮かべ


実験を続けた。




拐われた子供「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”っっっ!!!!!」



ミネルヴァ「…ふん…こいつは惜しかったな…。」



男はぐちゃぐちゃになった肉塊を見つめて



ミネルヴァ「次も捕まえてこないとな。」



科学者「先生!処理どうしますか?」



ミネルヴァ「…CUBE(きゅーぶ)に加工し各地の支援組合へ提供しろ。」



科学者「了解しました。」



ミネルヴァ「おい。お前。」



科学者「はい?」



ミネルヴァ「確か…まだあの集落にストックがあったよな?


くくくくく…。」



科学者「あぁ!例の集落ですか?大丈夫とおもいますが?補充ですか?」



ミネルヴァ「そうだ…まだまだ俺の…俺達の実験は始まったばかりなんだから。」



科学者「ならすぐに準備させますね。」



ミネルヴァ「…ああ。今回は俺も行こう。」



研究所を後に男とその部下は


とある場所へと向かうため歩き始めた。





その日の夜。


私は外がやけに騒がしくて目が覚めたんだ。



恐る恐る家の外を覗いてみる



シズ「え…。」



私は…ただ息を飲む…。



ボワアアアア!!



赤く赤く燃える家々…


たくさんの大人達が戦ってる。


何人も無惨に殺されていく。



シズ「なに…これ…。」



外に出てしまっていた私は


その場で足がすくんで動けなくなっていた。



ナヅナ「シズちゃん!逃げなさい!!」



ナヅナおばちゃんの声があらけて聞こえた。



振り向くと大きな体をした男が私に掴みかかろうとした


その時だった。



ドン!!!



カザ「娘にっ!!!さわるな”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”っっっ!!!!!!」



病弱の父が勢いよく男に体当たり


私は助かった。


でも…父は弱い…


死んでしまう!!



やだ!!



私は父のところへ行こうとする。



スズ「だめ!シズ!行っちゃだめ!!」



ガシッ…



強く腕誰かに捕まれた


それは母の手だった。


母の手は震えていた。



スズ「お母さん…。」



母はゆらゆらと立ち上がり


私の肩に手をやると優しく抱きしめた。


なにも言わずに、ただ優しく強く。



私は悟ってしまった。


これがきっと…


最期なんだと。



スズ「…シズ。大好きよ。愛してる。」



シズ「…お母さん…。」



今にも溢れだしそうになる感情をグッとこらえながら、私はお母さんを抱きしめ返す。



スズ「シズ…いい子ね。お母さんは…あの人と一緒にいてあげなきゃだから。あの人何だかんだで…寂しがり屋だから。」



そう言って母は真剣な表情でナヅナおばちゃんにこう言った。



スズ「娘を…頼みます。」



ナヅナ「…わかったわ。」



スズ「時間がないわ…シズ。貴方は生きて幸せになるのよ。」



シズ「お母さん!!!!」



私は強く…叫んだ。


もう…最期とわかっていても


声を出さずにはいられなかった。



燃える炎に…包まれながら


私を悲しませないように


お母さんは笑顔で手を振ったのだった。



ナヅナ「…シズちゃん…。…いくわよ!」



母は父が戦ってる場所に向かって駆け出したと同時に…私はナヅナおばちゃんに手を引かれ森を抜けるように走り出した。



私達は走り続けた。


でも…それは長く続かない。



私達は見つかってもうずっと走り続けている。


ナヅナおばちゃんも相当疲れている。


私は足を止める。



ナヅナ「シズちゃん!!なにやってるの!早く逃げるわよ!」



シズ「おばちゃん…ありがとう」



私は考えた。


相手はこのまま私達を逃がすつもりがない。


このまま逃げきれるとは思わない。


私は…賭けに出る。



シズ「おばちゃん。私は…あいつらの所に行くよ。」



ナヅナ「何言ってるの!あいつらは人殺しよ!」



シズ「あいつらは私を追ってきてる。私が目的なんだよ…ナヅナおばちゃんだけならまだ逃げられる…。」



ナヅナ「ふざけないでよ!」



シズ「ふざけてません!」



ナヅナ「…っ…。」



シズ「私の命で。誰かを助けられるなら…私はそうしたい!お母さんには生きてって言われたけれど!私は…あの家族との時間が…。一番…なによりも…。大切で…。この先、生きても…きっと幸せになんてなれないんですよ…。だから…っ…。」



パンッ!!



おばちゃんは何も言わず


私の頬を叩く。



ナヅナ「あんたのお母さんは貴方の幸せを!あたしに託したんだ!あの時のお母さんの想いを…あたしは無駄に出来ない!大好きだからこそ!愛したからこそ!貴方の先に見える笑顔を見たかったからこそ!あんたに!生きて欲しいと願ったんだ!!だから!生きなさい!!!!」



ナヅナおばちゃんは怒声を上げた後。


ぼろぼろと…涙を流した。



ナヅナ「おばちゃんにも…大切な孫がいて1ヶ月ほど前に帰ってこなくなったわ…。もう…きっと死んでる。殺されてる…


。大切な孫…だったのよ。あたしは…もうあんな想いはごめんなんだよ…。」



シズ「…おばちゃん…。」



科学者「…ようやく…見つけた。これで最後の一人みたいだな。」



背後から…ガサガサと何人もの集団に囲まれるように。


…私があの時、走り続けていれば…ナヅナおばちゃんを死なせずにすんだのかな…。



おばちゃんは、最後の最後で私を守ろうとした。


けれど…何人もの暴力には敵わない。


ナヅナおばちゃんは呆気なく死んだ。



私は目の前で見ていた


おばちゃんが殴り殺されていく


その時の顔が目が…私の脳にチラつく。



ナヅナ「何であの時…あたしの言うことを聞いてくれなかったの…?」



そう…言っているような気がして。



シズ「はっ…!?」



目が覚めるといつもの真っ白い天井に白い部屋に私は一人きり。



もう何日たっただろう…。



私は科学者の言われた通りにする。


なんの液体かわからないものを身体に注射される。


凄く痛いし苦しい…。


日に日にそれはエスカレートする。



シズ「”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”っっっ!!!!!」



身体の内側から焼かれるように熱い。



そのつぎの日は


拘束され身体のあらゆる所を切り刻まれた。



痛い…痛い…痛い…。



その次の日はさらに激しく。


また拘束されそうになる。


抵抗するが麻酔を射たれて眠ってしまう。


起きた時には実験室。


また…始まる。


私は…科学者の玩具だ。



その後もあらゆる実験が繰り返された。




シズ?「私は…誰なの…?ぼくは…だれなんだ?」



ぼくはわからない。


何も…。



目の前にいるやつに


名前をもらった。



デビル。



天使と言われているらしい。


ぼくの力は幸せにする力だと言う。


幸せが何か…ぼくにはわからない。



ミネルヴァ「ついに完成した!!長かった…これで世界は俺のものだ!!絶対的な力圧倒的暴力。俺は…私達はついに神の力を手に入れたんだ!」



ぼくの耳にそいつらの声が聞こえた途端。


ぼくはなぜだか。


無意識に…。



不快だと。



そう…感じてしまったんだ。



次の瞬間ぼくはぼくでなくなった。


ぼくがぼくじゃないだれかが叫んでいるようだった。



デビル「ーーーーーーーーーーーーッ!!!!」



叫んでいる…


嘆いている…?


怒っている…?



ぼくはその日、研究所を跡形もなく破壊した後


静かな海へ沈んでいく。



なぜこんなにも


こんなにも…


悲しいんだろう…


悔しいんだろう…



ぐるぐると思考を回転させ…ぼくは深い深い海の底で…目を閉じた。



どれだけたったかな…


ぼくは…


目覚めて…


ゆっくりと深い深い海の底から浮上し


月を見て涙を流す。


何でもないただの月なのに。


懐かしいと感じるんだ。



……寂しい。


ぼくはこのままずっと一人なのかな。


……誰か。


ぼくを…終らせてくれ。



?「……君には幸せになる権利がある。」



誰かの声が聞こえた。



ぼくの頭に語りかけるように男は続ける。



?「初めまして、海原シズさん。」



デビル「……海原…シズ…?」



?「記憶に霧がかかっているね。仕方ない…。はぁ!」



男がぼくの頭に優しく触れる。



ぱぁぁぁ!


それは光り輝く。



何が起きたかわからない…


でも…たくさんの記憶が溢れ出すようだ。



シズ「わた…し…は…。」



君の名前は海原シズ


小さな集落に生まれ父と母に愛され生き抜いた強い子だ。



シズ「…あなたは…一体…。」



ファウスト「ぼくはファウスト。世界の滅びを救うため、君みたいな絶望を抱えた子を導くための者だよ。…なんて…気取ったものじゃないけれど。でも…君には幸せになる権利がある。君に新しく人生をあげる変わりに…ぼくと協力して世界の滅びを止めてくれないか?」



シズ「ちょっとまって…色々と…頭が…。それに…私はばけもの…だし。」



ファウスト「…確かに君のその姿はばけものでその力でたくさんの人を殺すことも出来る。」



シズ「………。」



ファウスト「でもね。それは君次第でどうとでもなるんだ。


君は兵器としての力を制御できていないだけなんだ。ぼくはその力を貸して欲しい。」



シズ「…制御…?」



ファウスト「君のその身体はもはやふつうの人間じゃない身体になっている。逆に言えばある程度のことなら死なないし、耐えられる。気持ちの持ちようさ。けどまぁ…。君は女の子だし。可愛くないとね。」



目の前が真っ白になる。


私は人の姿に戻っていた。



ファウスト「話すのが面倒だから、勝手にやっちゃうけどゆるしてね」



シズ「…これは…」



ファウスト「君はこれから新しく生まれ変わり、海原シズとして生きるか、デビル(兵器)として生きるか。それは自分が決めること。」



シズ「………。」



ファウスト「ぼくの望みはたったひとつ、世界の終焉を止めて欲しい。」



…男は一方的で


私に等身大の鏡を用意して見せてくれた



シズ「…これが…私…。ふつうの人…ではないかもだけど…


なんか変な感じ。」



ファウストさんはドヤッていたけれど…微妙だった。



どれもかもがいきなり過ぎて戸惑っていたのだ。



シズ「なんで…私なんか…。」



ファウスト「言ったでしょ?君のその力が必要なんだ。その力は強大だしひとつ間違えれば破壊につながる。」



シズ「………。」



ファウスト「でも…使い方によっては世界をも救う。だから…手伝って欲しいんだ。」



シズ「…私に出来ますか?本当に。」



ファウスト「出来るとも。とはいっても…君の存在は大きすぎるから、ある程度処理してから転生になるんだ…。すまない…。」



シズ「…構いません。私の力で誰かを幸せに出来るのなら、きっと…あの時私を守ってくれた家族やおばちゃんにも…きっと。意味があったと。そんな感じに…っ…。」



ファウスト「………。」



シズ「もっと…あの時…私が早くあいつらに捕まっていれば…っ…あの未来は…お父さんやお母さん…ナヅナおばちゃん…村の皆も…死なずに…。」



ファウスト「……君は十分に頑張ったよ。君のその痛みは苦しみは君だけしかわからない。でも、その記憶も痛みも苦しみも悲しみも怒りも決して無くしちゃいけないものだ。それを持ったまま背負いながら生きていくしかないんだ。君が出来ることは次の人生で君が幸せになった姿を家族や皆にみてもらえばいい。きっと…届くはずだ。だから…今はゆっくりと休んでくれ。次に声をかけたとき…君はきっと前を向いて進めるはずだから。」



その優しい声はどこか懐かしく感じて。


私は瞳をゆっくり閉じた。



次回【零却寺プロジェクト】星の欠片集



【ファウスト編】









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コメント: 1
  • #1

    海原シズ (土曜日, 25 5月 2024 23:13)

    昔の私はここで死んで救世主様により救われた身。私は新しい身体をいただき次の世界へ行きます。あの時私に生きることを選ばせてくれた皆のためにも私はなすべき事をする。どうか見守っていてね。