赤帽子ズキンエピソード

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その昔、森で静かに暮らしていた人間の家族がいた。


その家族は娘が1人。両親2人、祖父母2人。


5人の家族。


祖父母は別居していて今いる家から少し離れた場所にあり時間を間違えて迎えは帰りは暗くなっていて帰るのが難しくなる。


というのも別居している祖父母は年相応で身体が弱くなっていた為度々、家族3人でお見舞いに行っていた。


そんなある日、両親は一人娘であるズキンという少女にお見舞いに行くようにお願いをした。


嫌がる素振りは見せずニコッと両親に笑いかけそのお願いを受ける。


早速支度をするズキン。


お見舞いの林檎をたくさん手提げ籠に入れながら少しだけワクワクしていた。


何度か1人で祖父母の家には行ったことがある。


ワクワクしていた理由はおやつ目当てである。


自宅では、おやつはさんじだけしかでない。


決められた数しか食べられない。


祖父母の家に行くとおじいさんとおばあさんがズキンに甘く、内緒でたくさんお菓子を御馳走してくれる。


ズキンはやっていけないとわかっていても、食欲には勝てなかった。


そして当日、支度を済ませたズキンは元気よく家を後にして祖父母の家に足を進ませていくのだった。



「いってきまーす!」



祖父母の家に向かう道中とても綺麗な花畑がありせっかくだからと少し摘んで持っていくことにした。


寄り道を少ししてしまったから祖父母の家には遅く着いてしまった。


気がつけば空は曇っていてポツポツと雨が降り出す。


流石にこの天気では今日は帰れなさそうと感じたズキンは祖父母宅の木製のドアをコンコンっとノックして中にいる祖父母が出迎えてくれるのを待つ。


しかし、その日は全く反応がない。


いつもならギィっと木製のドアを開ける音と共におじいさんかおばあさんが出迎えてくれるがそれがない。


様子がおかしいと思ったズキンはギィっと木製のドアを開けて中に入る。



「おじいさん!おばあさん!お見舞いに来たよ!!」



呼びかけも空振り。


やっぱり反応がなかった。


少々呆れでため息を付いたズキン。


きっと2人共疲れて寝ているのかもしれないと考えたズキンは寝室へと向かう。


寝室に向かうとベッドが2つある。


右側におじいさん。


左側におばあさん。


けど…おじいさんはいなくて


おばあさんだけ眠っている感じだった。


いつもなら何食わぬ顔で祖父母に駆け寄るズキンだったが、違和感と恐怖が頭の中に渦巻いていた。


それは部屋が赤く汚れているからだ。


まるで人の血。


部屋全体に飛び散っている。


少し乾いているところもある。


ズキンが来る前に付いたもの。


ズキンは深呼吸をすると意を決して寝込んでいるおばあさんを確認する。


おばあさんは眠っていた。


少しホッとしたズキンだったが。


ギィっと寝室のドアが音を立ててゆっくりと開いた。


ズキンはそっと後ろを振り向くと絶句する。


大きな狼だ。


一匹の大きな狼が立っていた。


ギロリとこちらを睨んで笑う。



「美味そうなのがまた増えた」



その狼は人の言葉を話した。


そして…姿を変えた。


その姿はおじいさん。


ズキンのおじいさんの姿だった。


混乱する私を嘲笑うかのように狼は笑う。


ただただ恐怖でズキンは足が震えている。


狼は追い打ちをかけるようにゆっくりとズキンに近付いていく。


ズキンは手元にある林檎を投げつけ抵抗する。



「こっ!来ないで!化け物!!」



怯えるズキンを見て更に嬉しそうな狼。


投げつけられる林檎は容易く避けられ当たらない。


狼は機嫌がいいのかズキンにベラベラと話す。


その狼は対象を食べることでその姿に一時的に変身することができるというものだった。


おじいさんの姿になっているのはもう考えるまでもない。


部屋が赤く汚れているのは、おじいさんの抵抗した返り血だった。


全てを理解したズキンは後悔する。


おじいさんの姿で狼はそんなズキンに提案。


そこに寝ているおばあさんを残して逃げるか。


代わりにズキンが喰われるかという話。


どっちか見逃してやる。


そうゆう話だった。 


ズキンが選んだ答えは。


おばあさんを捧げる選択だった。


狼は意外な答えが返ってきたことで驚いていた。


最低だなと狼にもおじいさんにも言われているような感じがしてなんとも言えない感情になったズキン。


重々しく口を開く。



「おばあさんをあげるから見逃してほしい。」



命ごいだった。


狼は残念そうにズキンをみる。


つまらないなと狼はため息をつく。


狼はおばあさんのベッドに手をかけて寝てるであろうおばあさんに掴みかかった。


ズキンはその光景を見て更に恐怖する。


寝ていたと思ったおばあさんはもう既に胴体がぐちゃぐちゃの状態だった。


明らかに喰い荒らされた様子。


狼は再び残念そうだ。



「これじゃぁ…代わりにならないなぁ…?」



最初からズキンを食べるつもりだった。


狼はずっとズキンを狙っていたらしい。


家族3人でこの祖父母の家にお見舞いに来ていたときから。


ズキンが1人の時もあったがまだその時ズキンの祖父はかなりの腕の狩猟者だったためなかなか手が出せずにいた。


そして今、ついに。


その狩猟者も衰え狼に敗北し血となり肉となった。


先回りをしていた狼は徹底的に絶望に落とした上でズキンを喰らう予定だったと明かした。


全てを狼から聞いたズキンの目には光がない。


しかし…狼はそんなズキンを食べるのが惜しくなった。


そのズキンが魅せた表情に興奮していた。



「助かりたいか?ズキン。」



「え」



狼が提案。


お前の両親かお前自身か。


ズキンの選択は。



ズキンは狼と寝た。


狼も襲ってこなかった。


翌朝、やっぱり夢ではなかった。


血だらけの部屋。


もうおじいさんもおばあさんも結局食べられてしまった。


部屋に散らばる林檎も血がついている。


せっかく摘んだきれいな花も血で汚れているものもあれば枯れて萎んでいるものもあった。


辺りを見渡すと狼の姿が見当たらない。


寝室から出て台所からトントンと音が聞こえる。


おばあさんの姿をした狼はが林檎を手際よく切っている光景に直面する。



「なにしてるの?」



「起きたか。見ればわかるだろう。林檎を刻んでるんだ。」



不気味な光景だ。


自分の祖父母を食い殺した相手が自身の祖母の姿で何食わぬ顔で林檎を刻みつまみ食いをしている。



「お前も食え」



「いらない」



「俺が食えっていったら食うんだよ。」



狼の圧に負け


渋々口に林檎を押し込んだ。


甘くてシャクシャクとしている。


美味しい。


美味しいと感じてしまう。


こんな状況なのに。


ズキンは出された林檎を食べた。


狼とズキンは祖父母の家を出て自宅に向かう。


選択したのだ。


自分自身を。


ズキンはおじいさんの姿をした狼と歩く。


向かう道中に狼が適当に話しかけてきたりした。



「お前は自分がやろうとしている事がわかっているのか?」



「そうだね。」



「やっぱりお前…俺と一緒だ。」



「そうかもね。」



自分可愛さに家族を売るのだから。


ズキンは自身の本質に気づいてしまっていた。


家が近くなるとズキンの父が近くで待っていた。


父は心配そうにズキンに駆け寄る優しく抱きしめ頭を優しく撫でた。


ズキンの父はなんの警戒心もなく化けたおじいさんに一礼する。



「おとうさんせっかくだからおじいさんもお家で休ませてあげちゃだめかな…?」



ズキンは父にお願いをする。


父は快く言葉を受け取り、狼を家に招き入れた。



「すまないな。昨日は雨が降っていたからズキンを家に泊めたのじゃ。」



適当に狼は話を合わせる。


しばらくしてからお母さんも狼と顔を合わせた。


お母さんは何かを感じ取ったのか。



「何か獣臭い気がするのだけど…気のせいかしら?」



「そう言えばそうかもしれないな。」



狼の眉間にシワが寄ると狼は姿を変え油断している父に飛びつくと首筋を喰い千切った。


即死だった。


目の前の出来事に母は悲鳴を上げその悲鳴と共に父と同様に首筋目掛けて狼は飛びかかる母とっさの判断でなんとか避ける。



「ズキン!逃げなさい!」



ズキンは虚ろの目で眺めていた。


そして謝罪の言葉を繰り返す。



「ごめんね…お母さん。」



「こいつは自分可愛さに、お前ら両親を俺に売ったんだ。」



狼は腹を抱えて笑っていた。


母は謝罪の言葉を繰り返すズキンを責めなかった。


何かを悟ったようだ。



「貴方は正しい。」



「……………ごめんなさい。お母さん…。」



「イサギがいいな。人間。泣けるね。」



狼は全然泣いていない。


むしろ楽しんでいたように見えた。


キッと狼を睨む母を最期に。


ズキンはその死に様を見続けていた。


そしてこれが本当の最期なんだろうとズキンは察している。


狼は嘘つきでずる賢くて獣臭くてすごく怖い存在。


だから。



「どうせ。食べるんでしょ?」



「当たり前だ。最後に取っておきたかっただけだ。」



「ね?狼さん。名前はあるの?」



ズキンは虚ろな表情で狼に問う。


狼はどうせ最期だからといい答えた。



「特にはない。それがどうかしたか?」



「聞いただけ。じゃぁ…お礼。言っておくね。」



「お前…とうとうイカれちまったか…?」



先程までの弱者の雰囲気ではなく。


不気味な空気が漂う。


狼は一瞬だけズキンに恐怖を覚える。


ズキンは狼の前に立ち両手を広げた。



「はい。」



満面の笑み。


ただただ不気味な笑み。



「お前、本当にズキンか?」



「どうしたの?食べないの?」



狼はズキンの豹変に身を引く。


無意識に恐怖が襲う。


ズキンはゆっくりと狼に迫る。



「…っ…」



「ねぇ?なんで食べないの?ほら?食べるんでしょ?早く。ねぇ…。ねぇっ!!ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!!!!」



気がつけば狼は壁際についてしまっていた。


これ以上は後ろに下がれない。


狼がその時見たズキンの瞳の奥。


闇だった。


真っ黒い闇。


禍々しいほどの闇。


狼が狙っていたズキンはこのズキンじゃない。


別人だ。


怯えだす狼は逃げ出そうとする。


ズキンは強い力で狼に纏わりつくように飛び付いた。



「ねぇ…たべてよ。たべてよ。」



壊れた人形のようだ。


狼はズキンを強い力で振り解く。



「っくそ!!」



狼は走り去って行く。



「食べてくれないなら…私が食べるね。」



ズキンはズキンで無くなっていた。


狼の跡を追いかけるズキンは歩いていた。



「私は狼さんと一緒だから。」



あの狼を見つけた。


倒れているようだ。



「どうしたの?狼さん。」



狼は返事がない。


それもそのはず。


祖父母で狼が食べていた林檎。


あれは毒リンゴだった。


ズキンはその時理解した。


両親は祖父母をズキンに殺させようとしていたこと。


籠に入っていた林檎は6個でその内の1つが毒リンゴだった。間違えて入れたのだと思っていたが林檎を栽培してるお母さんとお父さんはベテラン。


つまりはやっぱり殺そうとしていたって考えるのが妥当だった。


因みに林檎を籠に入れていたのはお母さんだ。


この家族は終わっていた。


だからズキンは狼に感謝を伝えた。



「楽しかったでしょ?」 



「………………。」



「狼が人間に欺かれて利用されて可哀想。だからせめて私が食べてあげる。私も貴方と一緒で狼みたいなんでしょう?」



「………………。」



返事がない。


ただの死骸。


ズキンはクスクスと笑い


狼を食べたのだった。



この話は昔話。


題名は。



「赤帽子のズキン」



END