謀りの神に御用心エピソード

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零却寺プロジェクト


【謀りの神様編】


あの赤い頭巾の少女の一件が落ち着き安堵の日常をおくれている。


今のところは落ち着いた様子だ。


この世界の時期が夏期に近づくある日の夜、雨期に入り、よく雨が降るようになった。


悪天候続きばかりで洗濯物は干せずじまいでシスティはイライラしていた。



「この世界はいつまであめがつづくのよ!」


「まぁ…ここらはもう雨期に入っちゃったからね…」



システィが不満をぶちまける中、いぬこは、それをなだめるようにシスティに話を合わす。


ジメジメとするこの感じがシスティはどうやら苦手らしい。


それにしても今回は異常なくらいに雨が振っていた。



しばらく様子を見ること一ヶ月。


ずっと雨が続いて流石に異変が起きていると確信する。



「これは流石に何かあったんじゃないかな…」


「なによ?心当たりがあるの?」


「まぁね…?」



いぬこはシスティに問われると傘の準備をして雨に関係する人物に会うべく家を出た。



いぬこが家を1人で出ようとするので、システィは呆れ顔をしながらも同行する事になった。


いぬことシスティが二人きりで出かけるのは珍しいことだった為。道中会話が無くぎこちない雰囲気だったらしい。というのも、お互いに何を話したら良いか緊張していた。



「いぬこ?私達って二人きりは初めてよね。」


「そ、そうだね…。どうかしたの?」


「あ、いや…なんだかシスティアやツキノとはよく居るから慣れてるんだけど…なんか…緊張しちゃって。」


「システィも…そうなんだ。」


「?」


システィは困惑の表情を浮かべながらいぬこの反応を伺うのだった。



いぬこはくすくすと笑顔でシスティに向かって答えた。


「私も緊張していたんだ。」


「いぬこ…」


少し照れくさそうにシスティも頬が和らいだ。それから少しずつお互いの緊張は解れて、本題の話題に切り替わる。


「ねぇ?いぬこ。今どこに向かってるの?」


「紫陽花ノ園。」



紫陽花ノ園。


ここは紫陽花というこの時期に開花する植物の群生地。色とりどりの美しい青、淡い色のピンク、一般的な紫陽花とは違い多くの種類の紫陽花が咲き誇っている。その場所を管理する存在がいぬこたちの前に姿を見せた。


大きな葉っぱの傘を差し、紫陽花の髪飾り華奢な身体に淡い色の衣装を纏った一人の少女。



「…ようこそ。紫陽花ノ園へ。」


「アジサイちゃん。久しぶり。」


「あぁ…いぬこちゃん。今日はどうしたんで…って」



アジサイはシスティの姿を見るとビクリと体を強張らせ姿を消してしまう。


いぬこが慌てて説明。



カクカクシカジカと事情を手短に説明するとアジサイは安堵の息を吐く。



「ほっ…そうゆうことですか。」


「ごめんね驚かせちゃって。」



首をふるふると横にふるアジサイの口から雨の原因について語られた。


アジサイの能力は雨を降らせる事が可能。



アジサイの元の存在は紫陽花の花と不可視のエネルギーが集合。それらが融合して生まれた存在。雨を降らせる範囲は紫陽花が存在する場所から広範囲正確な距離まではわからないらしい。雨を降らせるだけではなく強弱も操れるためいぬこはアジサイを訪ねた。



アジサイの話によれば、自分で力の制御が最近うまくできないらしくそのせいかも知れないとの事。


戦闘を避け穏便にことを解決することは出来ないかと悩んでいた所にとある人物がこちらに声をかける。



「何かお困りかの?若者達よ。」



胡散臭い宗教勧誘みたいな衣装を着た人間の女性だった。


女性は傘を差していてはっきりと顔が見えない。


いぬこ達はその存在に違和感を感じていた。



「あ、貴方は誰ですか?」



怯えながら一気に後ろに隠れるアジサイ。安心させるようにいぬこが守るようにかばう。



システィが全力でいぬこたちを抱えてその場からの離れる。



「ちょっ!!システィ!どうしたの!」


「あわわわわ…っ!」


「いぬこ、アジサイちゃんを連れて早く逃げて。」


システィの様子が明らかにおかしかった。


「待って!どうしたの!システィ!」



システィは翼を広げて先程の場所へ戻って行く。



呆然とするいぬこはアジサイをおぶって自宅に向かうのだった。


自宅へとたどり着いたいぬこは慌てて皆に事の次第を説明するが…。



「いぬこ…あんたなんでアジサイそんなにおぶってるの?」



リューコが指摘するといぬこがハッとした表情で顔が青ざめる。


そんないぬこをみたリューコ達は察していた。



いぬこがおぶっていたのは紫陽花。


本物のアジサイではなかった。


本物のアジサイは…。



「…そんな……っ……。」



システィがその光景を見て青ざめた。


さっきまで一緒にいたアジサイは真っ赤に染まって食い荒らされている。



「見ちゃったか?」



背後から聞こえる声に恐怖を感じる。



「あなた…何者!」



システィは急いで距離を取ると、目の前にはあの人間の女性がいた。先程着ていた胡散臭い衣装が真っ赤に汚れてる。



「相手に名前を尋ねる時は自分から名乗れってのを聞いたんだけどの。えらく剣幕じゃな?」


「剣幕にもなるわ…あんな…酷いことしておいて!」



「なんで殺したの!」



システィはキッとそいつをにらめつけると女はにたにたと笑い答えた。



「雨の原因だったから。食べた。それだけの事。」


「だったら!他の方法だってあったかもしれないじゃない!」


「でも…お腹空いちゃったんだ。仕方ないじゃろ?…あれ?この前食べた娘の口癖移ったか?」



「…この前…食べた…娘?」


女は上機嫌なのかペラペラと語り始めた。


「たしか…その娘。赤い頭巾を被ってて…。」


「…っ!!?まさか…。」


「名前は…知らないけど人間と狼が混じった気持ち悪いやつだった。」


「……っ……。」



システィは瞬間的に武器を手に取り女に斬りかかっていた。



「手を出したからには覚悟は出来てるってことじゃの?」


「うっさい!!!貴方が何者で何を目的として生きているかは知ったこっちゃない!!!けど…私の友達を確実に泣かせる運命が確定してしまった貴方は私が消す。」


「どうやらお前には、私の能力が通用しないらしい。面白い。お前も食ってやる」



壮絶な戦闘が開始される。


一気に距離を詰めてくる女の攻撃を間一髪で部分的防御障壁を張る。


敵の攻撃は圧倒的でこのままでは部分的防御障壁も破壊されるのは時間の問題。何とか距離をとり杖からの砲撃で応戦する。



「弱い…弱すぎる。さっきの威勢はどうしたんだ?ほれ!ただの去勢か!」



砲弾を無数に撃ち続けるが、まるで効果がない。このまま防戦一方になるのはまずい。システィの奥の手はまだある。しかしまだ使いどきじゃない。今は相手を油断させる。このまま弱いを演じきる!システィが意を決して物理で応戦する。



「零式!勝利の剣(エクスカリバー)!」



システィが握っていた杖は眩い光を放ち変化する。


零式勝利の剣はシスティアから事前に護身用として受け取っていた術式。杖の姿を変え伝説名高き聖剣がシスティの手元に握られている。その術式は使い手の身体を一時的に支配する。聖剣に眠る戦への記憶が目の前の敵を討ち滅ぼす。



「はあああああ!!」



聖剣に眠る記憶は元の所持者の記憶同様剣術は剣に記憶されているため。今、女が戦っている相手は聖剣の所持者本人と言える。



「ほぉ…まさか…そんなことも出来るのか…。ますます…お前を食べたくなった。」


「はぁ…はぁ…っ…やっと化けの皮も剥がれてきたみたいね。」



女の姿は人狼と近い姿。



「ここまでされたのは久々じゃな。良かろう…我は亥伊代奇苦世。謀りの神我を捨てた愚かな世界を壊す為に存在する。そのためには食べて力をつけなくてはならない。だから食べる。だから騙す。これは復讐なのだ。」


「そう…。なら。尚更、貴方を生かしてはおけない。復讐は何も生まない。」



「聞いていなかったか?我はこう見えて神だ。これまでは遊んでやっただけだが…本気を出すとしよう。さぁ…謀りの神に抗うものがどうなるかその身で刻んで死んでゆけ。」



謀りの神との戦いが再び幕を開けた。


どす黒い怨念の意識がオーラとなり覇気を纏っている。



システィは聖剣を握りしめ斬りかかる。その切り裂きは空を切る。


周囲を見ると複数の奇苦世に囲まれている。


聖剣が輝き出すとシスティの身体が構えを取ると一気に回転して斬撃を飛ばす。先程の奇苦世の分身であろう存在は全滅。



「それほどの力。相当体力も使うだろうどちらが持つかな?ふふふ…」



奇苦世の言う通り聖剣はかなり強力だがそれだけの忍耐と精神が無ければ聖剣に魂を吸い取られる仕組みだ。


今まで奇苦世と相手ができたのも対価が大きいためである。



「っ…うっさい。…だまんなさいよ…神って言ったわよね。私はね…神様を殺すためにここに来てんのよ。なめんじゃないわよ。」



「そうか…。ならやってみろ。お前の怨念が勝つか…私の怨念がお前を飲み込むか!!!」



聖剣はその身を焼き尽くすほどの神々しい光を放ち一閃を放つ。



「解き放て!無敗の剣!!!(エクスカリバー)」



無数の奇苦世たち遮られそうになる。


「ほらほら…もっと命吸わせないと我には届かんぞ?」



「っ!!!」


その時…ぴき…


聖剣の剣先にヒビが入り始める。



「だめよ!まだ!!私は!!お願い!折れないで!!負けないで!!」



ピキピキ…


システィの想いも虚しく聖剣は砕け散る。パラパラと光の粒子となり消えてゆく。



「おや?終わりか?ふふふふ…あっはははは!」



「…っ…」



力が入らなくなったシスティは地面へと落ちていく。



「システィ!!!」



勢いよく落下していくシスティをいぬこがキャッチする。あとから来たシスティアがボロボロになったシスティを見る。



「姉様…。」


「システィア!今すぐにシスティを安全な場所に運んで!」


「…わかりました。」



「リューコさんたちが来るまで何とか持ちこたえてください!」


「わかった。………うん。わかってる。」



システィアはシスティを抱えて治癒に専念すべく帰還させた。


リューコや椿はいぬこほど足は早くない為つくのが遅れている。


改めて目の前の敵と対面する。



「次はお前か?犬っコロ。」



「だったら何。アジサイちゃん…殺したの貴方?」


「ああ。味は水っぽかったな。」


「そう…。じゃあ…貴方を喰い殺すには丁度いい理由ね。」


いぬこは奇苦世の背後に音もなく回り込み脳天に踵ねじこむとそのまま一直線に地面に叩きつけられる。



「がぁっ!!!?」



奇苦世は何が起きたか解っていない



気がつけば地面に頭がついていた。


神が地に頭をつけている。


そんな事はあってはならない。



「お前…本当にただの犬っコロか?」


「死んでゆくお前には関係ない。」


「調子に乗るなよ。」



奇苦世は無数の分身をいぬこにぶつける。しかしいぬこにぶつかっていく分身は赤黒い炎で焼かれていく。



「なんだ!その力は!お前は…何なんだ!」


「どうでもいいでしょ。」



奇苦世は意識を集中させ超催眠をかけようとするが全く通用しない。



「なぜだ!なぜ!人狼風情が!!我の…神の能力が通用しない!」



いぬこの瞳が赤く染まる。



「簡単だ…私のほうがお前よりも強いだけだ。さぁ…鳴け。」



奇苦世の首を鷲掴みにしそのまま赤黒く禍々しい炎で焼き尽くす。肉がただれていく。



「ぎゃああああああ!!」



奇苦世は断末魔の如く叫びを上げるがその声はどこにも届かない。



「お前には地獄こそ相応しい。地獄でも後悔して後悔して後悔し続けろ。この世界の破壊者は一人でいい。」



奇苦世はそのまま身が焼かれる痛みと苦しみを味わいながら絶叫。壮絶死を遂げた。


神をも殺す炎。本来いぬこが持ち合わせていない力。この力はいったい何なのか。また…物陰から見ていたリューコと椿は一部始終を目撃していたのだった。戦いが終わりその場に倒れるいぬこを回収しリューコと椿で回収。



いぬこが目が覚めたのは一週間後のことだった。近くでずっといぬおが寝ていたらしい。


「皆!姉貴が!姉貴が起きたぞ!!!」


その後、奇苦世の事を聞くと全く記憶がない。奇苦世と戦ったのは覚えてるでも途切れ途切れでよく思い出せずにいた。


アジサイちゃんの死により雨の原因は解消された。



原因を殺すことで結果的には元の日常を取り戻せた。


でも、これが本当に求めた解決ではない。もしもあの場面でいぬこが戦ってアジサイちゃんを守ることだって出来たかもしれない。システィは私よりもかなり重症だったがシスティアの力によりかなり回復したらしい。



システィの部屋に入れさせてもらう。


私は近くの椅子に腰を掛ける。



「体の調子は大丈夫?システィ。」


「まぁね…私の妹が優秀だからなんとかなってるわ。」


「………ごめんね。システィ。」



いぬこはシスティに謝る。


自身の考えをシスティに改めて語るとシスティは呆れた顔をしていぬこに笑いかけた



「あの時、あの場所にいたのはアジサイちゃんといぬこと私。私は奇苦世に違和感を感じたわ。」


「違和感…?」


「奇苦世は私の…あー…。うん。そうね…私がいた故郷の最悪の神様と雰囲気が似てたの。」


「神様…か。システィはその神様と何かあったの?」


「色々…あったの。」



少し暗い表情で答えた



「とにかくね…嫌な感じがして2人を抱えて逃げた。でも…ごめんなさい。もう既に奇苦世は私が逃げ出すのを予想していた。その結果…。アジサイちゃんの幻覚を見せられてアジサイちゃん本人は…。」


「そうか…システィ。システィはすごいよ。私なんかより凄いよ。本当に。」


「…いぬこ。」



「今更かもしれないけど…システィのおかげで助かった。本当にありがとう。」



優しくシスティの身体を抱きしめるとシスティも抱きしめ返す。


ただその抱きしめる力は力強く悔しさも感じる。


もっとなにか手はあったはずなのに…と。


数日が経ち雨上がりの日システィといぬこは紫陽花ノ園へと来ていた。



雨上がりの紫陽花は差し込む日差しが照らしてキラキラとすごく綺麗だった。


いぬことシスティはお互いに育てていた紫陽花をアジサイちゃんが眠るお墓にお供えし手を合わせた。


いざ2人が去ろうとした時声が聞こえた気がする。



「ありがとう。」



そんな声が2人には聞こえたらしい。



END