血濡れの赤帽子と神隠しエピソード

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永遠桜の一件が終わり


しばらくは平和な日々が続いていた。


そんなある日のこと。


いぬこ達御一行は商店街に来ていた。


ここは江野町商店街。


あらゆる種族がそれぞれのお店を構えていてどのお店も競い合い豊富な品揃えでいぬこたちの世界ではとても有名なのだが、最近は物寂しく賑わいがあまり見られない。


各方の店に足を運ぶがどの店もガラガラでしんみりとした空気が漂っている。


何かあったのかと疑問に思い店の人達に話を聞くことにした。


話によれば素材を店の人達が取りに行ったがもう一ヶ月と行方がわからず店の仕入れも困難、更には人手不足により店が周らず乏しい状態だったという。


いぬこは店主に行く先を教えてもらい捜索を検討することになった。


店主が気まずそうな顔でこちらを見てはなにか言いたそうだ。



「なにか言いたそうですね。」



いぬこの声にびくっと体をよじらせる店主。


慌てて何でも無いと取り繕うとしていたが下手くそなのかいかにもなにか知ってますみたいな態度だった。



「私は何も知らないです。ただ噂が…」



「噂…?」



じーっといぬこに見つめられた店主は観念したのか、あっさりと申し訳無さそうな顔でこちらに噂を話した。


素材を取りに行った場所はかなり深い森の奥で、そこに生息している装飾素材や食用植物や食用動物それらはとても品質が良く。


各お店からも評判が良かったらしい。


しかし深い森だけあって危険な魔物なども多くの生息している。


なので助っ人として腕のたつ冒険者、能力者を必ず同行させて向かうようにしていたが、いくら待てど帰ってこない為捜索隊を派遣も捜索隊も帰ってこない。


それからというものこの商店街ではその森の噂で持ち切りになってしまった。


全部が全部だめになったわけでは無いのだが品質の良かった商品が作れなくなったためそれを求めて来てくれたお客さんも商品がなく徐々に客足が無くなった。


結果この商店街は以前のような賑は無いということらしい。


原因を把握するといぬこ達は自宅に戻りその森へ向かうべく身支度を整え出発するのだった。



店主に途中まで案内してもらい森の中へと踏み進んでいくとかさかさと茂みから誰か出てくる。


警戒しながら身構えるがただの野ウサギだった。


一緒にいたツキノが目を輝かせてぴょんぴょんとうさぎに駆け寄ろうとするがうさぎはぴょんぴょんと跳ねて逃げ去ってしまう。



「あ!待ってくださいよ!」



「ツキノ!ちょっ…」



「ボクなら大丈夫です!皆さん先に行っててください!」



ツキノはそのうさぎを追いかけ、離脱していく。


しかし、何か嫌な予感がしたいぬこ達はツキノを追いかけることにした。


ツキノのスピードはかなり速くいつの間にか見失ってしまった。


辺りを見回すと先程とは違う薄暗い太陽が差さない森の深くに来てしまった。


ツキノの匂いを辿ろうとするがそれとは別の嫌な臭いが鼻に来る。



「うっ………なにこれ…」



「姉貴…これやばいぞ。」



臭いはなにか腐敗したようなそんな臭い。


それと…血なまぐさい。


思わずもう一度辺りをよく見渡すと明らかに腐敗した肉やなにかの骨が散らばっていた。



「これ…人骨だ。」



いぬこと同行していた鬼神椿は慣れたように腐敗した骸に近づいて見物する。


椿によれば骨は人骨と野生の動物と魔物の骨らしい。


椿は過去の経験で判別ができたらしい。



「ということは…」



「ああ。間違えない…ヤバい奴がいる。」



人骨多数、野生の動物多数、魔物の骨まで存在する。


明らかに食い荒らされている。


これだけの食い荒らし方だと相当強力な魔物か別の化け物と推測される。



「ツキノが危ない!早く見つけないと!」



「いぬこ!落ち着きなさいよ。」



「でも…明らかに危険だよ…嫌な予感がするの…。」



ズズッ…


その場にいたいぬこ以外が何かを感じる。



「姉様。いぬこさんから離れてください。」



システィアがシスティに様子がおかしいいぬこから離れるように指示する。


システィはこんな状態のいぬこをほおって置くことができず、優しく抱きしめようとしたその時。


いぬこの姿はだんだんと別の姿になっていく。


赤い頭巾を被った何者かがシスティの首筋に噛みつこうとしていた。



「姉様!!」



「え…いぬこ…?」



「っアブソリュート!!!」



咄嗟の判断で一緒に同行していたリューコがいぬこ?に向けてアブソリュートを放ち氷塊に閉じ込める。


氷は見事に命中しいぬこ?だったものは凍っている。



「システィ!…アンタ、油断しすぎ!」



システィはその場から離れヘタリと尻餅をつく。


システィアが駆け寄り心配するかのように抱きつく。


身体中念入りに触るシスティアに椿もちょっぷをかます。



「あいた!」



「こいつはどうゆうことだ…こいつはいぬこ…じゃない。…誰なんだ。」



椿が警戒しつつ氷塊に近づく。


ピキピキ…と氷塊にヒビが入る音がしだした。


バックステップで距離を取る椿。


瞬間砕け散り、ザクザクと氷を潰しその姿を現す。


ギラリと赤く光る視線に一同の背ずじが強張る。



「アハッ…なかなか面白いね。あなた達。」



赤い頭巾をかぶりにこやかに笑う少女。


ゆっくりとこちらに近付いてくる少女に椿は刀を抜き突き付ける。


不敵な笑みを浮かべ少女は静止する。



「まだ何もしてないのに酷いね。」



「いぬこをどうした。」



「あの人狼?今頃もう一人の私と遊んでいるわ。」



少女はニタニタと笑顔を向けながら椿の向ける剣先に手を添え赤く光るその眼光に釘付けになってしまっていた。



「……………。」


(身体が…動かねぇ…。)



「私はもうかれこれ数百年。生きているの。私は退屈してたんだ。でもね?生きているとやっぱりお腹が空いちゃう。だからね?食べるしかなかったの。」



「アブソ…っ!?」



「人のお話を最後まで聞いてくれない子は…お仕置きしなきゃね。」



リューコの視界はぐにゃりと歪んでいく。



「なによ…これ…」



「じゃぁね。青いトカゲさん。」



リューコはその場で倒れてしまう。


一同が驚き何度か呼びかけるも意識がない。


眠っているだけのようだ。


しかし次の瞬間。


リューコがむくりと起き上がり発狂し何処かへ走り去っていく。



「ふふふ。あの子はもう壊れちゃうね。弱ってきたら後で美味しく食べないとね。」



「……………っ!!」


(リューコ!!くそっ…)



「そんなに暴れたいの?鬼さん。」



「…………っ!!」



「大丈夫だよ。貴方もあのトカゲさんみたいになるから。」



「いえ。そうはさせません。」



この状況で赤い頭巾の少女が発する能力に影響を受けなかった人物がいた。



「システィア…。」



「システィア…姉様はリューコさんを追ってください。私はこいつの相手をします。」



「私じゃ…」



「姉様は大丈夫です。」



システィは今いるメンバーでは一番戦力にならない。


本人も十分に承知している事だった。



「それに…状況は最悪です。いぬおさんも居なくなってます。」



いつの間に共に居たはずのいぬおの姿も見当たらなくなっていた。


恐らくは赤い頭巾の少女の能力がこの森の広範囲に影響していると思われる。


最初にいたメンバー。


いぬこ、いぬお、リューコ、鬼神椿、ツキノ、システィ、システィアの7人。


それが現在この場にいるのは、鬼神椿、システィ、システィアの3人のみ。


バラバラになってしまった。



「姉様。姉様には事前に私の能力で状態異常無効化を常にかけています。だから大丈夫です!」



「システィア…。」



「姉様!時間がないかもしれません。急いで他の皆さんを!」



「へぇ…そうだったんだ。私の能力に対抗できるんだ。天使さん。」



ギロリと少女の目は赤く光出すと椿を後にその場からのシスティアに一直線に向かってくる。


どこからか取り出した大きなハサミを振り上げシスティアに向かって斬りつける。


大きく振りかぶるハサミは大地を軽く抉る。


システィアはギリギリで避け自身も応戦する。


システィアは自身の杖を変化させ弓矢で対抗する。


しかし、赤い頭巾の少女はシスティアが放つ攻撃をすべて避けきると空を飛んでいるシスティアに跳躍で追いついた。


これにはシスティアも驚き、更に戦闘は激しくなる。



「あははは!あははは!天使さんつよーい!!」



「貴方は…何者何ですかっ!」



キィィン!!


お互いに地上に下り互いに距離を取る。



「ねぇ?貴方は…昔話を知ってる?」



「昔話…?」



赤い頭巾の少女はシスティアに語りかけた。



その昔、この近くに住んでいた家族幸せに住んでいた。家族はお父さん、お母さん、娘、おじいさん、おばあさんの5人。


だけれどおじいさんとおばあさんは深い森の方で住んでいた。


娘は何度かお父さんとお母さんとで遊びに行っていたらしい。


時は流れておじいさんもおばあさんも身体が弱くなってお見舞いに行くようになった。


とある日。1人で娘がおじいさんとおばあさんの家にお見舞いへ行った時、おじいさんとおばあさんは狼に食べられていた。


その狼はかなり知性が高く会話ができて特殊な個体だった。


狼は娘に助けてほしければ両親を代わりに食わせろという提案をされた。


娘は怖くて怖くて仕方なかった。


死にたくもなかった。


だから…狼を家に案内させて両親の命を引き換えにした。



「ねぇ?天使さん。その娘さんどうなったと思う?」



狂気じみた眼光。


瞳の奥が闇で染まっている。


禍々しく恐怖だ。



「……何がいいたいんですか…貴方は。」



「狼は娘に食べられました。」



「……………は?」



「殺られる前に殺れ。私は知らなければよかったのかもしれないんだ。大好きな家族を壊そうとしたのは家族自身。狼さんはおまけみたいなもの。最初から家族に愛なんてなかったの。酷いよね?おじいちゃんもおばあちゃんも殺そうとしたんだ。私が大好きだった日々を終わらせようとした両親は死んですっきりした。私は…もう自由に生きる事にしたの。いい子はおしまい。狼さんも最後は呆気なかったわ。狼さんを食べた私は能力を習得した。この能力のおかげでお腹も満腹になるの。食べれば食べるほど強くなる。この森は私の餌場。だから、私は食事。レストランに来てる感覚なの。貴方は私の能力が通用しないから…」



「話が長すぎるので、そろそろ続きしましょう。まぁ…もう遅すぎますが。」



次の刹那。


システィアの攻撃が赤い頭巾の少女に入る。


ドスッ…


ゼロ距離からの砲撃。



「終わりです。判決有罪殺戮熱線!(ジャッジメントレーザー)」



放たれるは一直線に放たれた光の熱線。


凄まじい爆風と共に大地は一直線に抉れ行き止まりの山まで熱線が届いていた。



「………。」



「食べれば食べるほど強くなる…。」



少女の言葉が頭から離れない。


食べることで力を得ているのであれば、あの場所で見た死体の数々、嫌な予感しかしない。


手応えはたしかにあった。



「ねぇ?私と友達になってよ。」



背後から声がする。


いつの間にか背後を取られていた。



「おまえ…いつの間に…。」



「いつだっていいでしょ?ねぇ?友達になってよ。」



なぜか友達に執着しているようだ。


しかし、システィアはそんな気は全くない。



「なるわけ無いよ。私は私の仲間を傷付けたお前を許さない。」



「許されなくていいよ。」



「なにがしたいんですか。お前。」



「いいから…なれよ。友達に。このままだと皆私が食べちゃうよ?それに…今の私が能力を使えば…簡単に壊れちゃうよ?ね?ね?いいの?それでも…いいのかな?」



「甘いですね。お前は。私の仲間は全員凄い強いんですよ。」



「ふふっ…強がりね。じゃぁ…目の前で絶望に浸らせてあげるね。」



背後から刃をじっくりと首筋に突き立てようとした時。


頭上から何か聞こえる。



「誰が呼んだか……」



「なに?」



「月の兎が…」



「まさか最初に来るのが私の恋敵(ライバル)なんて、嫌な結末です。」



「さっきから何を…」



「「ライトニング!!キーィック!!!!」」



突如として大地が抉れ爆風が吹き荒れる。


その拍子にシスティアと赤い頭巾の少女は引きがされる。



「きゃああああ!!」



システィアは上手く体制が取れず落下しそうになるが柔らかい感触がシスティアの身体を包み込む。



「……信じてましたよ…姉様…。」



「待たせてごめんね…。システィア…。」



「大丈夫…です…。」


(こればかりは…あの赤い頭巾の女に感謝ね。…ふふ。姉様の…柔らかい。あぁ…最高。)



「おーい!システィ!システィアは?」



「なんとか無事よ。ありがとう。」



ツキノがこちらに駆け寄り心配そうにシスティアを眺めていたが、その時のシスティに抱かれていたシスティアがニヤニヤしてて気持ち悪すぎたのでなんか後悔したらしい。



「なんか…システィア気持ち悪いです。」



「え?」



そんなこんなでシスティアを救出に成功。


立ち込める砂煙の向こうからゆらりとこちらに向かってくる人影。



「…まだやつは倒れません!あいつは複数の能力持ちにランクアップしてる強敵みたいです。気をつけてください!」



「あなたが言うなら間違えなく強敵なのですね。…システィ。システィアをちゃんと見てあげててくださいね。最近は出番も少なかったですし。ここらでボクが実は最強だってところ魅せてあげますよ。」



「言われなくても。システィアは私が死んでも守るわ。」



「姉様…。」



「むふふ…では。」



ツキノは立ち込める砂煙の中へ飛び込んで行く。



「お前…誰…。いいところだったのに…。」



「ボクの名前はツキノ。夢は弱きものを救うヒーローです!」



「なにそれ…すっごく大嫌いなフレーズ。」



「そうですか…。ですが…ボクは君のことは嫌いじゃありません。」



「きっしょ。…あーうざい。所詮はうさぎ。食い殺してあげるわ。」



「積極的ですね。うさぎはうさぎでもかなり強いうさぎだってこと身体にわからせてあげますよ。」



ツキノが先に仕掛ける。


ワンステップで踏み込みゼロ距離まで接近しものすごい速さで蹴りを入れる。


ドスッ…!



「なっ!!?」


(こいつ!!?動きが…)



「むふふ…ボクの蹴りは痛いですよ。」



「ぎぃっ…!!?」


(お腹が…破れ…なんてね。)



にぃと不気味な笑みをこぼしそのまままともにツキノの蹴りを受けて飛ばされていく。



「…………。」


(なにか感触がおかしかった…)



背後に殺気を感じたツキノは後回し蹴りを繰り出す。



「なかなか反応がいいけど耐えられるかな?」



次の瞬間赤い頭巾の少女は分裂し始める。


攻撃をすればするほど小さくなる。



「ちまちまと鬱陶しいですね。使いたくはありませんでしたが特別に君には魅せてあげましょう。」


(能力を多数持つ。案外、いるんですよそんな人。あなただけじゃないんですよ。)



「私は楽しいよ!ほらもっと遊ぼうよ!」



ツキノは天高く飛び上がると天に手を掲げ自身の能力により無詠唱魔法。全属性を合わせた特大の魔法を地上に向け解き放つ。



「これならどうですか!やあああああっ!!!」



「なにそれ…いいね。止めてやる!はあああああ!!」



2つの能力がぶつかり合う中


システィとシスティアはそんな二人の様子を見ていた。



「姉様…アイツ…ほんとに認めたくはありませんけど…強いですね…。」



「えぇ…悔しいけど…実力は本物みたい。」



そんな会話をしていると後ろの方からいぬこたちの声が聞こえてきた。


どうやら皆無事らしい。


システィアは安堵するとゆっくりと体を起こし事情を説明した。


事情を把握したいぬこ達はツキノの援護に向かおうとするがそれをシスティが静止させた。



「皆待って。」



「どうしたの?システィ早く助けに行かなきゃ!」



「ツキノはあの子を救おうとしている。」



「どうゆうこと…?」



「上手く説明できないけど…。そんな感じの目をしていたの。」



「信じてあげてください。姉様とツキノさんを。」



「システィア…」



戦況はかなり荒れていた。


もはや森ではなく荒れ地。


激しい戦い末両者ともども疲れ果てていた。



「はぁ…はぁ…」



「なぜ…倒れないの…。ボロボロなのに。」



「…倒れたら負けに決まって…るから…じゃ…ないですか…。」



「…負けず嫌いってやつ?うざいなぁ…」



「いいですか?君がボクに負けたら今後はボクの友達になってください。」



「は?」



「だから…僕みたいな強いやつが友達ならいつでも喧嘩相手になってやれますよって話ですよ。」



「…………。面白いね。うさぎのくせに…。でも、私に勝てたらだよね?いい加減うんざりしてたから、最期にしてあげるね。」



赤い頭巾の少女の姿が元に戻り、凄まじい殺気と狂気のオーラをその身に纏っていた。


今にも覇気だけで意識を狩り取られそうな圧力がツキノを襲う。



「…………。」



さっき程よりも別格。


こればかりは死を覚悟しなきゃならないほど。


システィの話によれば、赤い頭巾の少女は魔物も食べたと言っていた。


あの尋常じゃない瘴気やエネルギーも納得がいく。


それを一撃でぶっ飛ばす。


つまりは…ボクの全身全霊であいつをわからせれば勝ちってこと。



ツキノは深呼吸をすると全神経を足に集中させる。


両足からは凄まじい電撃が纏い出す。


バチチチ!


両者睨み合いタイミングを図る。


風の音だけが両者には聞こえる。


次の刹那。



「死ね!クソウサギ!!!」



放たれたのは全てを飲み込む闇の熱線。


あえてツキノはそれ目掛けて自身の脚を突き出しそのまま勢いに任せて貫く。



「超ライトニングキィィクッ!!!はあああああっ!!!」



その光景はいぬこたちにも見えていた。



「頑張れ!ツキノ!」



「いっけぇ!!負けるな!!」



「ツキノ!!!」



様々な応援がツキノには聞こえてツキノは調子に乗る



「これだから負けられないんですよ。ヒーローは勝たなくちゃいけないんです。だから、負けられないんだあああああ!!!!」



「「うおおおおおお!!!」」



「なっ…なんだ…これ!ふざけるな…ふざけるな…ふざけるなあああああ!!!!」



黒い熱線を貫通しその蹴りは赤い頭巾の少女を貫いた。



「………が……っ!?」



「ボクの…勝ちです。」



ドサ…


赤い頭巾の少女は地面に倒れていた。


なにか吹っ切れたような顔で空を見ていた。



「…………負けたのか…私…。」



「えぇ。ボクの勝ちですよ。どうですか!敗北の気持ちは!」



「うざい。超うざい。殺したい。」



いつの間にかいぬこたちも駆けつけ、安心したのかツキノと疲れ果てた赤い頭巾の少女は眠ってしまった。


ツキノが目を覚ますとよくある展開。


ベッドから眺める天井。


お約束である。



「ツキノ。おはよ。」



「いぬこさん…。ここって」



ツキノはいぬこの家に運ばれシスティやシスティアによる治癒を受けこの場所で安静に眠っていたらしい。



「あの子は無事ですか?」



「あぁ…一緒に運んだんだけどいつの間にか逃げちゃったみたいで…。」



いぬこは苦笑いすると少し落ち込んだ様子のツキノに手紙を手渡した。


いぬこの話によれば今朝テーブルに書き置きがあったらしい。


早速読んで見るとツキノの表情が少しだけ和らいだ。



「お前らに看病されるなんて死んだほうがマシだ。次あった時は全員私の胃袋だ。私は私の好きなように生きる。お前らの顔を見るとムカつくからあの場所からは身を引いてやる。勘違いするな。餌場を変えるだけだ。お前らは何も解決していない。ざまあみろ。」



「こりないやつですね。」



「それなら大丈夫だと思います。」



ガチャリとドア開ける音と共にシスティアとシスティが部屋に入ってくる。



「おー!2人共!無事でしたか!」



「は…はい。何ですか…気持ち悪いですね。」



「ちょっとツキノ!そんなに動いたら…」



「あー…平気ですよ。2人がボクを治癒してくれたんですよね。」



ツキノはゆっくりと立ち上がりツキノとシスティアを抱きしめる。



「むふ…ありがとうです。」



システィは照れくさそうにしていたがシスティアは複雑そうな表情。


そしてそれを見守る苦笑いいぬこ。


そこにリューコ、椿、いぬおが買い出しから帰ってきた。



「ツキノー見舞いに来たぞ。」



「リューコもきてあげたわよ!」



「お前ら病人なんだから静かに…あれ?」



「おかえりなさい。3人ともご覧の通りだよ。」



みんなのおかげでツキノは元気になっていつも通りの平和な…とは言わない。



肝心の神隠しは不安定のままだったため。


原因をその少女のせいとは明かさず、凶暴化した魔物が縄張りにしていた為として報告。


今後、いぬこたちが週に2,3回魔物を狩ることとし、その代わりにそのお礼としていぬこたちもそこの素材の採取の権利なども許可された。


どちらにとってもメリットがある運びとなった。



名前も知らない。


赤い頭巾の少女。


彼女は何者だったのか未だに謎が深まるばかり。



その夜。



「ツキノさん。」



ツキノが夜風にあたっている所に意外な人物が話しかけてくる。可愛らしいパジャマ?を着たシスティアがツキノの横に並ぶ。



「あの赤い頭巾の少女。ほおっておくつもりですか?」



「あの子は…ボクの友達なんだ。」



「…まさかツキノさんも言われたんですか?」



「言われた?」



「ち、違うんですか?」



「いや…ボクからだけど。」



「は?…………はぁ…そうですか…。」



「なんですか?そんな呆れた顔して。」



「別に…。」



「あの子には信頼できる友達が必要だと思ったんですよ。かなり鬱陶しいお節介だと思うんですがね。…むふー…。」



「それであのこの何かを変えられるとでも?」



「わからないよ。でも、友達がいると幸せだって教えたくなったんですよ。」



「まぁ…恐らくしばらく会えないと思います。」



「むふー…そうなんですか?」



「ツキノさんとの戦いで全力を出し切ったと思いますから。」



「………。まぁ…それなら大丈夫そうですね。今頃何をしてるんでしょうかね…?あの子。」



ツキノは寂しそうに空を見上げていた。



「まぁ…またなにかした時は私の能力で封印してやります。」



「そんな事もできるならやればよかったんじゃないですか?」



「…………仏の顔も何とやらです。」


(そこまで頭が回らなかったとは言えないです…)



「そうですか…。システィアも早く寝るんですよ。ボクも寝ます。では。おやすみなさい。」



「お、おやすみなさいです…。」



部屋に戻ったツキノはベッドに転がり天井を見上げる。



「また会えたら次こそは…」



ツキノは疲れ果てたのかそのまま眠りに落ちていくのだった。



数ヶ月が経ち


例の神隠しも無い。


もちろん。


それはつまり、あの赤い頭巾の少女の目撃もない。


不安は消えないままこの一件は幕を閉じたのだった。





「むかつく…むかつく…むかつく…」



「おや?そこのお嬢さん。何かあったのかい?」



暗くて良く見えないけれど


底にいたのは胡散臭そうな人間の女だった。



「………お腹が空い…て…死んじゃいそうなの。」



「じゃあ…私が君の願いを叶えてあげるから。その代わりお嬢さんが私の食料になってよ。」



「はぁ?叶えられるわけ…」



女は人差し指をこちらに向けた途端


私の膝は地について立つのもままならな異状態に陥っていた。



「お前!何を!何をした!」



私の視界は大きく歪みその場で倒れてしまう。


ドサ…。



「っ…くそ…が…。」



視界がボヤけて見えないが


そいつは人間ではなかった。


犬のような耳に尻尾…


人狼…?


分からない…考えるまもなく意識が飛かける。



「こいつは…元人間か…面白いね。お嬢さんは…どんな味がするのかな?…楽しみだね。さぁ…眠るといい。きっといい夢が見られるよ。ふふふ…。」



「…………友達…に…なれば良かったな…」



何処かの森で赤い頭巾と真っ赤に染まったツギハギの衣装が発見されたらしい。



END