薬屋と小鬼娘エピソード

俺の父はめちゃめちゃ有名な薬剤師だった。

ありとあらゆる薬を知り尽くしまた、新薬の制作に成功したすごい人だった。

しかし…事件はつきものだ。

新薬を作るのに被検体が必要なのだ。

つまりは実験体だ。

効果を見るために必要なことである。

今までに1度たりとも失敗しなかった父が初めて被験者を殺してしまった。

父は今までに前例が無かったことから気が動転していた。

父はその後負い目を感じて自殺してしまう。

母のことはあまりもう…覚えがない


父の母にその後引き取られた

おばあちゃんは優しかったでも

ぎこちない空気とやりきれない気持ち。

部屋に閉じこもってばかりだった。


目を閉じて夢を見ていた。

父が俺に薬の素晴らしさをにこにこと嬉しそうに話す夢だ。


父「シュンメイ。俺がなんで薬屋やってるかわかるか?」


シュンメイ「…そんなのお金稼ぎがいいからでしょ?」


父は呆れたようにため息をつく


父「お前なぁ…そうじゃねぇよ。」


シュンメイ「ちがうんだ。」


父「ちげーよ。…はぁ…。あのな?薬ってのは苦しんでる人たちを笑顔にしてやれるんだ。」


父そのまま語る


父「お前の母さんは体が弱かった。あんまり外にも出られないし病院にいたのが殆どでな。いつも俺にニコニコしてくれていた。」


うつむいた父が寂しそうだった。


父「痛くても俺に心配かけないように気を使ってくれていて。俺は馬鹿だからそんなこと気がつくの遅くて。きっといつか外に出て2人でデートをしようって楽しそうに母さんに言ったんだ。すると母さんは。満面の笑みで絶対に行きたいなって…でも…それは叶わなかった。」


父「母さんがかかった病が新種だったんだ。」



夢から覚めた俺はいつもの見慣れた天井

ばあちゃんの家は意外にも裕福

ばあちゃんには上り下りが厳しい急な階段があったりする

2階建てでじいちゃんはとっくに死んでる

ばあちゃんには広すぎる家だった。


ばあちゃん「シュンちゃんー…ごめんねぇあそこの棚にある薬箱取ってくれないかい?」


申し訳無さそうな顔を向けてばあちゃんは俺に頼んでくる。

俺は来た頃はめんどくさいとも感じていた

父といた時間長ったしなにより…楽だった。

でも…ばあちゃんもやっぱり年相応で手間がかかる。


ばあちゃん「シュンちゃん。これ開けてくれないかい…?」


そこから見るに見かねなかった。

半ばヤケクソの時もあったが…

俺はばあちゃんの面倒に慣れてしまっていた。


シュンメイ「ほらよ」


固くしまっていた薬瓶の蓋と一緒に物を渡した。


ばあちゃん「シュンちゃんがいてくれておばあちゃんとても助かるわ」


俺に向けられたその笑顔になんだか照れくさくなる

俺がばあちゃんと過ごして1年が経とうとしていた。

ばあちゃんは倒れてしまった。

急いで病院に連れて行くが連れて行った頃には事切れていた。

たった1年…俺はばあちゃんとの生活がそこそこ気に入っていたらしい。

ばあちゃんの葬儀の日

雨が降っていた。

誰かの心の中のようだ。 

それはきっと…。


シュンメイ「……だれも…いなくなっちまったな…。」


雨が降る空を見上げて黄昏れていた。


俺一人には広すぎる家。

もう俺に面倒を頼む

ばあちゃんもいない。


俺はここからの道をどう歩むべきか

ここで改めて考えた。


しかし時間ばかりが過ぎていくばかりで

気づけば夕方になっていることが多い。

ばあちゃんが残してくれた財産でやりくりはしているけど流石に気が引けた。

働かないと。


部屋から出て一階のリビングにばあちゃんがよく使っていた薬箱がある。

俺はなにかに引き寄せられるように薬箱の前に立つ。

薬箱に手をかけて開けるとたくさんの薬と幼い頃の親父の写真や新聞に載った親父の記事が大切に保管されていた。


シュンメイ「…………。」


いくつか手に取り読んで見る。

俺宛の手紙が入っていた。

遺書と書かれたものだ。

父からだった。


シュンメイへ

俺は完璧じゃない

まだまだ足りない

でも長くは続かない

病で苦しんでる人々はたくさんいる

俺は苦しんでる人を見ると辛くなる

救ってあげたい。

お節介かもしれない

それでも…俺は馬鹿だからほっとけなくて

昔から薬には興味があったんだ

母さんと出会ってからはもっと頑張ったんだ。

でも…母さんを救うことが出来なかった。

お前だけでもと母さんは頑張ってくれて

お前を生んだ後も頑張って生きていた。

母さんのかかっていた病…

【水晶病】(すいしょうびょう)という

新種の病、過去なども調べたが全くない初の病気に母さんは犯されていた。

シュンメイはもう覚えていないだろうが…

そうゆうことがあったんだ。

母さんは体中から水晶を突き出しもう全く動かなくなって最後には胸から突き出るように水晶を突き出し絶命したのを今でも覚えてる。

この続きは…


文字がひどく滲んでかすれている。

読めない。

おそらくは…泣いていたんだろう。

薬学に精通していながら何も出来ないもどかしさ悔しさが伝わってくる。

手紙の端を見てみると小さく番号が書いてある。

なにかの番号なのはわかるが…一体どこの…。

よくある展開。

自分も本を読むのは嫌いじゃなかったからなんとなくでうちにある金庫を調べる

ダイヤル式で頑丈に閉ざされている

カギも一緒に入っていたから間違えはないだろう。

金庫に手をかけ呆気なくカチャリとロックが解除され封印されし中身が姿を見せる。


親父が使っていた薬学についての資料本

俺のサイズピッタリの商売衣装が入ってた。


服を取り出してとりあえず着てみる…。

全体を確認するため鏡の前に立って見てみる…

まじまじと見ると…普通に採寸もしてないのにぴったりすぎて変な感じだった。

親父は俺に結局薬屋になって欲しいと言うんだろう。

でも直接言わなかった。

むしろばあちゃんに預けていた。

俺が気づかなかったら一生あのままだったろうに。

親父はおれの好きなようにやらせてくれていたんだな。

薬学には確かに興味ある。

親父が調合してる時見ててワクワクした。

簡単な材料なら俺も連れて行ってもらえた。

いつの間にか俺は無意識に父の残した薬学資料に目を通している。

父は字が少し汚い。

でも細かく細かくみてると滲みまくった文字が当時の雰囲気を物語っているようだ。

その日から朝から夕方までぶっ通しで読む。

俺は少しずつ調合ができるようになった。

3年が立つ近くのバイトをしながら家をやりくりしていたが、薬学のために旅に出ることを決意した。


13で家をでて旅にでるとか

普通なら怒られる

でも…もう俺にはいない。家族は俺一人。

さみしい旅になりそうだな。

怖くないといえば嘘になる。

けど殻に閉じこもるなんて生活もうこりごりだ。


衣装と大きめのバッグを背負って家に鍵をかけた。


それからなんだかんだで俺は歩き続けたりギルドに行って冒険者雇ったりと色々した。しばらくして…噂で流行り病が流行っているらしい。

かからないようにしないとな…念のため情報収集を念入りにした。

すると情報では【小鬼族の郷】という村があるらしい。そこで病が流行っているとのこと…。

行って確かめるしか無かった。

かかるかもしれない。

でも…親父なら絶対に見捨てない。

急がなければ…。


運送馬(うんそうば)を捕まえて目的地の周辺へ移動する俺は少し離れた場所に村のような建物が見えた。

恐らくはあれが目的地の【小鬼族の郷】だ。


肝心な時にマスクを忘れてしまったが薬師は耐性をつけてなんぼの者だ。

かれこれ自分の身体で色々試したから耐性は普通の人間より並外れて強い。

すぐには恐らく症状は出ないはずだ。

俺は先を急いだ。


「……………。」


先に進むにつれてかなり異様な空気を感じる。

原因はおそらくは何らかの胞子か?

空気感染系?いや…この感じはあれに似てるな…。

考えれば考えるほど時間が経ってしまう。

悪い癖だ。

とにかく今は村に誰かいないか確認しなければ…。

俺は【小鬼族の郷】に足を踏み入れ周囲を物色した後大きな声で叫ぶ。


「誰かいませんかー!大丈夫ですかー!」


勿論無反応だ。

というのも最早ゴーストタウン化している。

丸ごと逃げてくれたなら良いのだが、小さく本当に小さくだが咳き込む音が聞こえた。

ハッとした俺は各建物のドアを無理やり開け始める。

この村の状態でいるならかなり不味いと感じていた。

そして最後の建物に突撃すると一人の小鬼族の女の子が顔を真っ赤にして息もかなり荒い状態。

手の先が紫になっている。

確かにこの状態の病は見たことがない。

だがしかし悩んでる暇はない。

知識を活かして手を動かす。

持っていた薬剤を調合し注射器に入れたのち

彼女を起こそうと声を必死にかける


「おい!しっかりしろ!」


「ごっほ!…ごほっ!」


「………………。」


彼女は咳込み薄っすらと目を開けたが疲労が限界に達しているのだろう意識が消えかけている。


「…………。」


私は…夢を見ているのかな…。

誰かが声を掛けてくれている…だめだよ…

早く…にげて…。

私は…。


シュンメイ「諦めるな!!!」


「………………っ」

だれ…?


シュンメイ「おい!お前大丈夫か!?」


彼女は一時的だが意識を取り戻した。

口をパクパクさせながら話そうとするが声が出ない。


シュンメイ「…まじか…。」


薄っすらとぼやけて見えないが

必死に私に声を掛けてくれている。

ごめんなさい…

せっかく…話してくれてるのに。



シュンメイ「…お前は必ず俺が救ってやる。だからまだ死ぬな!」


この人は…怖くないのだろうか…

なんで…見ず知らずの…私を…。


シュンメイ「悪いが…麻酔するから。チクッとする。」


右腕にチクッと何かが射し込まれた。

何かを注入されて変な感じだったけど

不思議と痛みはない。

すると数分もしないうちに眠気が一気に押し寄せてくる。


シュンメイ「…安心しろ絶対に救ってやる。だから寝てろ。」


何がなんだかわからないままに私は深い眠りに落ちた。

どれだけ眠っていたかわからない。

私が目覚めると変わらないいつもの部屋の天井であの淀んだ空気が嘘みたいに晴れている。

空気が美味しい。

それに体が軽くなっている。


シュンメイ「………すぅ…」


私の横で女の子が寝ている。

誰だろう…?

まだ頭がぼーっとする中その子が目を覚ます。


シュンメイ「…ん……おぉ!?大丈夫か?」


目をこすり女の子は私を見て驚いている。


リンエイ「……あっ…。」


声を出そうとしたけど…

すごく痛い…


シュンメイ「喉が痛むか…」


彼女は私に近寄り優しく頭を撫でてくれた。


シュンメイ「でも…よく頑張ったな。もう大丈夫だ。」


優しい声で彼女は私を安心させるためか目の前にいる私に抱きつき頭を再び優しく撫でてくれた。

私はボロボロ涙をこぼしていた。

今まで殺していた感情を吐き出すかのように泣く。


リンエイ「……っ…ん…ぅ…」


痛くても本当に嬉しかった。


シュンメイ「……声はまだ出せそうにないみたいだろうからゆっくりでいい。落ち着くまで。俺がいてやる。だから安心しろ。」


「あり…が…っ」


その後彼女を彼と知ったのはちょっと先の話。

この時の彼シュンメイに私は多分…惹かれてしまったんだと思った。

そんな私の行動は単純で付いていくことを決意したのだった。


「俺についてきたい?」


あの何も無い空っぽな村に1人は流石に寂しいか。

まぁ…衣食住には困らないくらいにはまだ資金はあるが…一応女性。気まずくならないだろうか?


「あの…シュンメイ様。」


「様はいいって。」


あの日助けてからしばらくが経ち言葉を話せるようになってからはリンエイは俺をかなり慕っている。

悪い気はしないのだが…少しばかりかやっぱり恥ずかしい。


「いえ!私は…シュンメイ様と…呼びたいと言いますか…だめでしょうか?」


「……嫌じゃないんだが、呼び捨ては出来ないか?」


「…いや…それは…構わないのですが…なんというか…恥ずかしいです…。」


「…………。」

それはこちらのセリフだと言いたい。


「慣れるように努力してくれ」


「はい…わかりました。」


それから俺はリンエイの村だった【小鬼の郷】から使えそうな物を片っ端から頂戴し村をリンエイと一緒に出ていく。

リンエイは少しさみしそうな表情で見つめる。


「リンエイ。良かったのか?」


「え?何がですか?」


「残らなくて良かったのかってことだ。」


リンエイは村を見つめていた瞳をこちらに向けニコリと笑う。

その笑顔は何だか吹っ切れていたようだ。


「いいんですよ。まぁ…私を見捨てて逃げていった事は確かにモヤモヤしますが…我が身可愛さというのは事実ですし。仕方無いと思うんです。」


気持ちはわかるがまぁ…妥当な考えだと思った。

でも、なぜか俺もその話を聞いて許せないことがあった。


「俺は今後のお前の知り合いにあった場合治療してやらん。」


「え?」


「リンエイを見捨てたやつだからな。ちょっと暗い痛い目見てからなら見てやらんことはない。」


「…………。おかしな人ですね?シュンメイ…様は…。」


クスクスと笑うリンエイはどこか幸せそうだった。

その笑顔につられてか久々に俺も笑みがこぼれる。

顔が不覚にもニヤけっ面になりそれを見たリンエイに少しからかわれたりするのだった。


数年があっという間経ち俺たちは店を持つ程になり、今ではアガスティアの薬屋として有名になった。


「おー!でけぇ!ここがかの有名の薬屋!」


一人の見た目幼い少女が店を物色しはしゃいでいる。


「あなた!ここでは大人しくするんですよ?」


「なんだ?小鬼か?」


少女は見た目の割に生意気。


「ちょうどいい!薬師シュンメイはどこだ!」


「え?シュンメイ?貴方誰?」


黒いとんがり帽子を外し赤紫の髪をなびかせる。


「私は錬金魔術師!アスタリア!薬師シュンメイと話がしたくてここに来たわ!」


END