宇津巻籠エピソード

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【雨露の散歩道】

私は普段太陽を遮ってしまう洞窟で過ごしてる。

太陽は敵だ。熱いし乾燥する。

洞窟のジメジメしたところは冷たくてみずみずしい。最高だね。

しかし、最近気になる場所ができた。

紫陽花の花々がたくさん咲き誇って常に雨が降る場所が存在するらしい。

蝸牛竜としてはぜひとも行きたい。

と考えた私は陽の光を極力避けながら、目的の地「紫陽花園」へ向かった。

道中ジメジメした場所があるとついつい私は歩くのをサボりその場で寝てしまう。

無防備じゃないかと思うだろうけど案ずるなかれ。私には能力とこの蝸牛竜の殻がある!心配は無用と言うことで私は寝る。

こうして私は野宿しながらゆっくりと着実に怠惰に進んでいく。

もう大分来たのではないかと思うのだが自分は蝸牛竜なので足がとても遅い。

仕方のないことだが…つくづく思う。

例えば空に飛んでいる鳥を追いかけようと思えば日が暮れてしまう。

仕方がない。

蝸牛竜なのだから。

そんなことを考え今日も鈍速にうねうねと道を突き進む。私が通った道はとてもわかり易い。

私自身の体質により皮膚から乾かないための保護粘液が溢れ出しているそれにより通った道は常にじめじめしている。

帰り道も安全だね!だったら良かったのだが生憎太陽などで蒸発し乾燥する。

帰りはなく行き当たりばったりののほほん旅だ。

もうそろそろ目的地に着きそうだ。

私は心を弾ませ、ぬめりぬめりと進んでいくとそこには噂通り見事な色とりどりの紫陽花が咲き誇っていた。

すごい…こんな素敵な場所があっただなんて…感極まり私は紫陽花園のアーチを潜った。

ぽつぽつと心地よいまでの雨が振り私は大喜び。

うわぁ!気持ちいーっ!

私がはしゃいでいるので誰かが私に話しかける。

私は…6つある目玉の1つで360°確認できる。

するとそこにいたのは華奢な体で大きな葉っぱの傘を持ち真っ白な衣装の女の子が立っていた。


「はじめまして。私は…ここの管理をしています。アジサイです。」丁寧に会釈し挨拶をされた。私も同じように対応。


緊張がほぐれるととても話しやすく優しい子で居心地が良かった。


「ここの紫陽花はどうやってそだてたの?」


私は普通に疑問だった。

各種色んな花をみたことがあるが子ここで育てられている紫陽花はどれも見たことが無い色をしていて不思議だった。


「私も実は良くわかっていませんが、恐らくは…」


アジサイちゃんは優しげに口を開け淡々と話す。

花に声を掛けると成長する話だった。

アジサイちゃんはここで生まれて既にたくさんの紫陽花があり、なんとなく眺めていたらそれがだんだん可愛く見えて紫陽花一つ一つに話しかけたりしたらしい。


「つまり、色んな色の紫陽花を見てみたいと紫陽花達に?」


苦笑いをするアジサイ。


「変でしょうか?」


そんなことは無い。

花にも意志があると思う。

実際ここに咲いている紫陽花はいままで見たどの紫陽花よりも1番綺麗なのだから。

相当丁寧に手入れがされている。

これはきっと紫陽花たちがアジサイちゃんに感謝の代わりなのだろう。


「きっと恩返しだと思うよ」


その言葉にホッとするようにアジサイちゃんは笑顔を見せた。


「私は…何もしてないですよ。」


「アジサイちゃんはそうかも知れないけれど、ここに咲いている紫陽花はどの子もアジサイちゃんが大好きだよ。一番見てほしいのはアジサイちゃんだからこんなにも綺麗に見えるんだよ。」


一ヶ月ほど紫陽花園に入り浸ってそろそろ次の新天地へ目指してここを出ていくことにした。


「もう少しここにいてもいいんですよ?」


寂しそうに呼び止められるけど私は首を横に振る。


「私はこう見えても気まぐれなんだ。自由気ままにマイペース。せっかく生きてるんだからまったり色んな世界を見たい。」


アジサイちゃんは残念そうだったから、気休め程度に答えた。


「またいつかここに来るから。気長に待っててよ。」


アジサイちゃんはこちらに駆け寄ると優しく抱きしめられる。

慌てて私はアジサイちゃんにストップをかけるが遅かった。

アジサイちゃんが私の保護粘液でベタベタだ。


「ごめん!私の保護粘液で…服が!」


アジサイちゃんはそんな事お構いなしに笑いかけてくれた。


「これくらい構いません。またいつでも遊びに来てください。」


あまりこんな感情になった事はないけど。

嬉し泣きってこんなかんじなんだなって思った。


「また来るね。ありがとうアジサイちゃん。」


こうして私は紫陽花を後にし再び歩き出した。

紫陽花を抜けて間もなくして、帰りたくなった。

理由は単純だ。紫陽花園の環境が最高すぎた。

しかし、今更戻るのもカッコつかないわけなので私はゆっくりゆっくり怠惰に気ままに鈍速にどこかへ向かい歩いていくのだった。


END