『夜風にあたる』
自宅に帰ったいぬこにいぬおが出迎え荷物を運ぶ。
「あれ?みんなは?」
「あー。リューコは椿とばちりに行ってて…ツキノとシスティとシスティアはあまり外に出たがらないシスティを連れて集会所に行って依頼をこなしに行ったかな?」
「集会所って魔物退治やらの?」
「俺も行こうか悩んだけどツキノとシスティアにいぬこ待っててあげたらって言われてさ。俺もそれ言われた時に確かに!ってなって…で!今ここにいるんだ。」
「……言われたからなんだ…。」
なんだか私は…不機嫌になった。
なんでかは…なんとなく察してほしい。
気にしていても仕方ない。
切り替えてバイトのことをいぬおに伝えた。
「姉貴がバイト?」
耳をヘタっと横に倒し疑問を浮かべるいぬお。
「今日買い物のメモに集中しすぎて男の人にぶつかっちゃったんだ。」
「ええ!ケガなかったか?」
「まぁ…」
「いや…相手だよ。」
「あ………はい。ごめんなさい。」
「勿論、姉貴も心配だけど姉貴の話聞く限りじゃ悪いのはこっち側だしな。」
ド正論パンチをくらい、いぬこは落ち込んでいた。
その様子を見てかフォローを入れようとあれやこれやと持ち上げようとするいぬおだった。
「で、結局その後にその人が持っていたチラシを拾ってそれがバイト募集のやつだった。」
「はい…。」
その後も話を聞いて納得。
姉貴の悪いところでもある。
助けを求めているやつがいたら誰であれ手を差し出す。
うちのトラブルメーカーたる由縁だ。
理解はしているものの…また変なことにならなければいいのだがと頭を抱えている。
「秋野大図書館…って結構遠くないか?」
「大丈夫だよ!しばらく泊まりだし!」
「はぁ!?と、泊まり!?」
「だって秋野大図書館って言ったらここから遠いし仕方ないじゃない。」
確かに秋野大図書館はいぬこ宅から距離はかなりある。流石に一人で行かせるわけにはいかない。
「じゃあ俺も姉貴に付いてくよ」
「そう?でも、この家どうするの?」
「今日の夕飯時に皆に話したらいいだろ」
「それもそうだね。」
夕飯時、それぞれがいぬこ宅に帰宅。
皆、それぞれ疲れた顔。
今日の夕飯を適当に作り大きなテーブルに料理を並べていく。
お腹をすかせた皆は正直でお腹をグーグー鳴らし席につく。
今日の出来事をそれぞれ話しながら食事を楽しむ。
食べ終わり頃いぬこはバイトの件を話すべく口を開く。
「私、秋野大図書館でバイトすることになったのでここの管理者をみんなに任せたいんだけどいいかな?」
唐突すぎる発表にいぬおと私以外は困惑している。
「どこそれ?」
転生してきた皆はまだこの世界のことを知らない。
「秋野大図書館はその名の通り大きな図書館だ。そこのスタッフみたいなやつとなんやかんやあって江野町商店街で知り合ってしまい、そいつが配ってたチラシを見てほっとけなかったらしい。」
いぬおが大体の事を噛み砕いて説明してくれた。
「いぬこらしいわね…」
「なるほど」
「どれくらいの期間なんだ?」
様々な意見が飛び交う中、いぬこは貰ってきたチラシを皆に見せる。
それを見た皆はそれぞれが顔を見合わせ意思疎通したかのようにいぬこの方を見る。
「みんなで行けばいいだろ。」
「えぇ!?なんでさ!」
結論、皆で秋野大図書館へ行く事になった。
男の人との待ち合わせ当日、いぬことその一行は約束の喫茶店へ向かった。
いぬこの姿を見て気が付いたのかこちらに手を振る男の人。
しかしいぬこが一人でないことに気がつくと困惑していた。
それもそのはずこうなる事を相手は知らないのだから。
一対一で話すつもりだったのだろう席は対面する形の席に男は座っていた。
店員オーバーのため近くの分裂していた椅子やテーブルを繋ぎ合わせ向かい合う事になった。
人数で圧倒している。
「えっと…すみません。この人たちは…?」
男の人がいぬこに説明を求めた。
「すみません…こんな大勢で。」
「いえ…俺は構わないんだけど。」
軽く挨拶を改めて交わす。
男の人は秋野大図書館の副館長みたいなものらしく名前は遊曲禍音さん。
「皆さんも手伝っていただける…って事で?」
「そうですね。」
「そうですか…」
禍音さんは少し困った顔を浮かべている。
「ご都合もしかして悪かったですか?」
「いや…こんなにも集まるなんて思っていなかったから…ちょっと驚いていたんだ。」
その後、バイト内容や期間に付いて丁寧に私たちに説明する禍音さん。
ざっくりと言うならバイト期間は秋期末まででバイト内容的には簡単そうだった。
自宅の件を伝えるとそのまま秋野大図書館の横に客人用の宿泊施設でお世話になるとの事だった。
報酬は全てが終わり次第一括で手渡しされる。
大体はこんな感じでその夜各自旅行気分で支度をする。
禍音さんによれば明日の朝にいぬこ宅へ足を運んでくれるらしい。
その夜、夜風に涼みに来たいぬこ。
同じくいぬおも風呂上がりで夜風にあたっている。
「なにしてるの?いぬお?」
「何って…夜風に当たってるんだよ。」
「それだけ?」
「………まぁ…また何か変なこと起きなきゃいいって思ってたんだ。」
月を見上げながらいぬおは苦悩している。
確かにそうだ。
春期には永遠桜、赤頭巾の女の子、紫陽花園、夏期には魚姫の件も色々と物騒ではある。
「大丈夫だよ。いぬお。何かあっても私が皆を守るから。」
「…………はぁ…。自覚なし…かぁ…。」
「え?…え???なに?」
「いやいや…なんでもねぇよ。」
(自分がトラブルメーカーとは気づかないか…)
「えええっ!?なに!なんなの!!気になるよ!」
いぬおは変にはぐらかして自分の部屋へと戻っていった。
非常に腑に落ちないが、まぁいいやと仕方無しに気持ちを鞘に納めた。
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