『奪われた唇』
早朝の朝になり、いぬこたちが外で待っていると禍音さんが迎えに来ていた。
「おはようございます。皆さん準備は出来てますね?」
「おはようございます。はい!皆、ソワソワしてます!」
禍音さんは辺りをキョロキョロ確認すると地面に紋様を描いている。
「これでよし。」
「これなんですか?」
私は興味本位で聞くと禍音さんは機密事項だと言うばかりで教えてくれなかった。その後、禍音さんの指示の元私達は地面に描かれた紋様の上に乗り、光りに包まれ視界が真っ白になっていく。
それぞれが驚きを隠せずにわちゃわちゃとしていた。
感覚的には中に浮いてる感じでふわふわしている。
それは一瞬で終わり瞬きをするうちの出来事だったようだ。
視界は落ち着き目の前に大きな建物がある。
何が何だか分からないままにどうやら私たちは秋野大図書館へ数秒で移動していたらしい。
「え?どゆこと…?」
状況が掴めないままいぬこといぬおはぽかんと口を開け…混乱している。
「いぬこ大丈夫?酔っちゃった?気持ち悪い?」
システィが尻もちをいつの間にかついていた私に手を差し伸べてくれていた。
「ありがとう。システィたちこそなんだか…平気そうだね。」
「まぁ…あなた達以外経験済みみたいなものだから。」
「…………。あ、これが…転移!?」
「あまり公表しないでくださいね?というか…転移を知っているなんて…何者なんですか?あなた達。」
禍音さんは警戒するような視線をシスティ達に向け、問いを投げかけた。
「機密事項ってことでね。」
「…………。わかりました。お互いに聞かなかったことにしましょう。」
「賢い判断です。」
一瞬ピリつき始め焦ったが良かった。
気持ちを切り替え禍音さんは秋野大図書館へと案内してくれる。
中はとても広く本棚が空中についていたりいくつものクリスタル照明が館内を色とりどりの光で彩っている。
螺旋階段や長椅子と長い木製のテーブル。
とても図書館とは思えない宝物庫のようでキラキラした場所だった。
「少し待て。館長を呼んできます。」
禍音は螺旋階段を駆け上がり消えていく。
長椅子でかけていると何やら声が聞こえてくる。
「言いつけ通りに連れてきてやったんだからこれで仕事に専念できるだろ。ほら!早くしろよ!」
「えー…だるいってばー…。」
「ええい!!頭にキタぞ!」
ベシッ!
「ちょっ!まが、!まがねぇ!!」
螺旋階段からこちらに向かって何か落ちてくる。
それは叫び声と同時に急降下。
「危ない!」
一目散にツキノが動いた。
ツキノは瞬時に自身の付近にある身近なもので足場を作り落ちてくるツキノ自慢の脚力で女性をキャッチするとピョンピョンと使用した足場を再利用し無事着地した。
「むふ―…危なかった。」
「ツキノ!大丈………ぶ……?」
システィが一番に駆け寄ったがそこで行われていた出来事に…言葉を失くした。
「…むっ…………。」
「………………。」
ツキノは吸われていた。
「大丈夫ですか?館…」
後から遅れてきた禍音も自体をみて唖然とする。
ツキノは処女である。
ツキノの貞操は純潔である。
しかし今こうして彼女らが目にしている光景は受け入れがたくただ世界が止まっているようだった。
ツキノは思った。
これが誰かと交わす唇と唇を合わせる「キッス」なのだと。
ツキノは感じた初めての相手は女性だったのだと。
きっともうツキノの頭は真っ白なのだ。
完全に思考を停止している。
「っちゅ!…………はぁ…最高!」
一方でツヤツヤになる女。
彼女こそこの秋野大図書館の管理者兼館長。
桔梗院文香その人である。
「な、な、何してくれとんじゃああああああ!!!」
システィが文香の胸ぐらに掴みかかる。
「あんた何なの!!何してんの!?意味がわからないんだけど!!!」
「ね、姉様!!?お、落ち着いてください!!」
そこへ禍音も割って入り2人を引き離す。
「館長!!なにしてるんですか!!これからお世話になるというのに!なんであんなこと!き、き、キスだなんて!」
「なになに?もしかしてうさぎの子とあの天使っぽい子出来てたの?それなら悪かった。あはは。許せ!」
ブチッ…
「何よあいつ…ちょっと殴らせて…」
今にも飛び出していきそうなシスティをシスティアが抑える。
「だめです!落ち着いて姉様!!」
「っ!」
「それで?あなたたちが新しいバイト?」
何事も無かったかのように振る舞う桔梗院。
そこにいぬこが代表はして返答する。
「はい。一応。チラシを拾ったらこうなりました。」
「なるほど。理解した。ようこそ秋野大図書館へ。歓迎するよ。」
挨拶も程々に済ませ、まずは宿泊施設へそれぞれ案内される。
秋野大図書館のすぐ横に大きな旅館のような建物がある。
早速案内されるがままに桔梗院と禍音の後に続く一行は見るもの全てがあまり見慣れない光景に目を奪われている。
それもそのはず…この旅館のような建物はすごく広く綺麗な場所なのだから。
和室、洋室、大浴場完備。
お風呂上がりはキンキンに冷えたビン牛乳各種が楽しめる。
かなりの高待遇である。
ある程度の案内を終え、それぞれの部屋に入っていく。
「すまなかった。館長には俺からきつく言っておく。本来、仕事をやってもらうはずだったが、流石に今日は体をゆっくり休め明日から仕事を頼みたいんだ。」
その要求に頷くと禍音は頭を下げ、桔梗院の後を追い去っていった。
和室にて
「ツキノ?大丈夫?」
「あ…ぅ…」
部屋決めのペアは私とツキノが和室。
リューコ、椿は洋室。
システィ、システィアが洋室。
いぬおは一人和室。
「いぬおはひとりか…また後で顔出しに行こうかな。」
すーっと襖を開ける音と一緒にシスティとシスティアが部屋に来ていた。
「いぬこ。どう?ツキノは?」
「まぁ見ての通りかな…?」
部屋の敷布団でうなされているツキノをみて心配するシスティ。
システィはツキノの寝ている側によりツキノの頭を優しくなでていた。
「いいなぁ…」
思わず遠くからその光景を見ていたシスティアは羨ましそうに見つめてると思いきやその背後にどす黒いオーラを纏っている。
私はこれがなんだか何と無く察しがついていた。
「姉様って…ツキノさんの事結局の所大好きですよね?」
ビクッと体を跳ねさせるシスティ。
すぐさま言い訳を返す。
「そんなわけないわよ!私は…ただ!あの女がツキノのエネルギーを吸っていたから、心配で来ただけよ!べ、別に好きとかそんな邪な事で来たわけじゃないわ!」
桔梗院にキスをされたときツキノはどうやらエネルギーを一緒に吸われて現在の状態になっているらしい。
「システィはどうしてそんなことわかったの?」
私は単純に興味本位で聞くとあっさりとした表情でシスティは答える。
「エネルギーの流れを見ただけよ。」
「エネルギーの流れ?」
要約すれば私達生命全ては何らかのエネルギーで身体全体を駆け巡っていて、そのエネルギーにより生かされている。
単純に言えば血みたいなもの。
ある程度の血を抜かれたりしたら、気を失ったり、何らかの形で体に支障が出るということらしい。
事を理解した後、私はそっと部屋を去っていこうとする。
一緒にいたシスティアも私同様に部屋から出ていき私と行動をともにするのだった。
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