人口約100万。

この世界では人類の生死は20年で絶命する。

年老いた人類はいない。

若い世代で子作りを成し16〜18の間で出産を終えている事が多い。

ただしそのまま身体が絶えられなく死亡する例も増加している。

身体の作りがしっかりしていないからだ。

それでも絶滅を避けようと人類は必死だ。

依然どんなに人口を増やせど寿命は20年と変わらなかった。

子をなしても愛するものと共にいられる時間はない。


「この子を…お願いいたします」


まだか遊び足りないくらいの年頃の子に自身の子を預け死んでいく。


「お前は俺が育てる。」


託された命を導く役割を背負って生きていく。

寿命が早ければやらなくてはならないことが多すぎる。

人類は苦悩していた。

そもそもなぜこんなにも寿命が早いのか。

1部の人間は知能が優れているものを筆頭に組織を作りやがてそれは拡大。

力をつけていく。


「俺たちは!新たな人類の進歩の為団結し!未来を切り開かなければならない!」


組織のトップの計画【新人類創造計画】が進行していく…ただしそう簡単にはいかない。

何故か…。

賛成派と反対派が割れた。

【新人類創造計画】は実験だ。

実験に必要となるのは勿論人間だ。

この実験は未来の為、人類のためなんだと言い聞かせ続けた。

あるものは愛する人を。

あるものは家族を。

あるものは親友を。

実験を遂行するにあたって組織に反逆し殺されそうになったことは数え切れない。


「あと少し…あと少しなんだ…。」


大きなモニターに映し出された実験体。

施設内で警報がなりモニターは赤く点滅する。


「リーダー!駄目です!投薬した薬品に耐えきれません!このままだと…」


止まるわけにはいけなかった。

俺が始めたんだ。

俺が背負わなくてはならないんだ。

何度も見た光景だ。

人類の為…なんだ。

初代の罪も引き継がなくてはならないんだ。


「続けろ…」


「しかし!!」


「いいから!!!やれ!!!」


「……………はい…。」


自分がどれだけ酷なことをしているかってことくらい。

わかっているんだ。

映し出されたモニターには人間の赤い血液と特殊保護溶液が混じり合い試験管のそこには爆散したと思われる肉片が散らばって沈んでいる。


「……バースト…しました。」


「ああ。」


【バースト】耐えきれず体内で爆散することだ。

実験は失敗。

この光景はいつまで続くのか。

終わりがない殺戮実験。

リーダーは世代交代し続けている。

初代が行った実験は一日1体を集中的に行っていた。

そこからもうどれくらいの人数が犠牲になったのかも数え切れない。


総人口約100万人。

それが今では対立し戦争し多くの犠牲が出た。

現人口約10万人。

根拠のない理想論に命を投げるのはおかしい。

それでも…これからの未来のため愛する人の為、人類のためにその理想論に身を捧げて死んでいったものもいる。

最初決められた寿命に疑問を持たなければこんなにも生きにくい世界にはならなかったのだろうか?


「お前等は人殺しだ。」


反対派のリーダーを捕らえ鎮静化。

組織側が圧倒的な戦力で蹂躙する。


「何が…未来だ。何が団結だ!こんなのは…人殺しだ!!お前等は人類を滅ぼす悪魔だ!」


人類の為。

いずれ死は誰にでも訪れるもの。

受け入れていれば。

逆らって余計なことをしなければ。

後悔を自身の身に。


「だめだ!リーダー!また…失敗だ!!なんで!なんで!なんだ!!!」


中にはノイローゼになり自我崩壊をしだす同胞も出てきた。

鎮静化しても自我が崩壊していてはもう使い道は1つだった。


「そいつを試験管に。」


組織の仲間達は苦虫を噛んだようななんとも言えない表情を浮かべ実験体を試験管に閉じ込めた。

数日後の朝のことリーダーは倒れる。

リーダーは今年で20歳を迎える。

死神に鎌を突きつけられている状態だった。

リーダーは次のリーダーを指名した後に自身を実験体にするように指示する。


「リーダー…。」


「いいんだ…。それよりも…すまない…。」


リーダーは担架で実験室に運ばれる最中最後に残した言葉。


「俺で終わらせる。」


組織の仲間たちに告げた後。

試験管に入ったリーダーを見つめながら。

私は仲間たちに指示をする。


「皆…今度こそ!成功させよう!」


皆の指揮を取り実験に取り掛かった。


「第一、第二、第三とシステムに異常ありません!」


ここまでは順調だ。

次の工程でバーストしなければ成功。


「第四!注入開始!出力を微調整しながら気をつけて!」


実験室が映し出されたモニターが赤く染まる。

だめだ…。

また…だめだ。

そう思った。


「「ERROR!ERROR!システムに問題発生!」」


モニターが赤く点滅し警報が研究施設に響き渡る。


「リーダー!!耐えて!耐えてよ!」


「もうだめだ!!」


戦意喪失の仲間に制御システムのレバーが握られていたが私はそれを勢いよく奪う。


「どいて!」


制御システムのレバーを調整。


「リーダー!!あなた!言ったよね!俺で終わらせるって!!」


「…………。」


「だから!頑張って!私達を!!導いて!おねがいだからぁっ!!!」


強く訴えかけた。

ただ上手く行け!

成功させるんだ!

人類に光を!


「リーダー!!!」


実験室のモニターは正常に映りだし警報が鳴り止んでいた。


「え…。」


「止まった…。」


「リーダー…がやりやがった…。」


前代未聞だった。

リーダーは新人類に生まれ変わった。

その日仲間を達と祝杯をあげた。

それから数日が経ち。

元リーダー…ディーネ・エクスクロスの経過の様子を見ていた時だった。

当初の元リーダーは男性の身体をしていたがいつの間にか背は低く髪は長く胸も豊満ではないがちゃんと形成されて男性器は女性器に変化している。

私は嬉しくなり日々を過ごしながらリーダーに声をかけていたりした。


「はやく…会いたいな」


試験管に手を当て様子を見ていた。

少しだがリーダーが目を開ける。


「わっ!開いた!」


試験管越しにはしゃぐ私は幼かったと思う。

リーダーはすぐに目を閉じてまた眠ってしまった。

数日後再びリーダーの様子を見に私は実験室に訪れた。

リーダーがいる実験室はとても頑丈で隔離されている。

仮に外で大爆発が起きても耐えきれるし防音性能のバッチリというのもリーダーの身体を案じてのものだった。


【システム99%】


【システム…100%到達。】


【実験を終了します。】


「え…?今…?ちょっ!」


試験管から特殊な保護液は排出されゆっくりとリーダーは地に足をつける。

プシューと試験管のロックが解除され扉が開くとひたひたと足を音を鳴らしながら私の目の前に裸でリーダーは立っていた。


「う〜〜〜。」


髪はベトベトでちょっと嫌そうな表情をこちらに向けた。

私はその姿を見て色んな気持ちが溢れて泣いてしまう。


「成功……した……。」


その後は落ち着くまで少しかかった。


「ほんとに…よかった…。」


「どうして泣いていたのですか?というか…私って何なんですか?」


どうやら記憶は無いらしい。

いくつもの投薬による副作用だろう。

目の前の出来事に疑問を抱いていた。

リーダーの濡れているのでとりあえず私はバスタオルを渡し衣服も用意した。

基本的な動作はちゃんと出来ていた。

私が観察しているリーダーはタオルで髪を拭きながら先程の自身が何者かについての解答を求めた。

私は事情をざっくり話し終えると…不機嫌そうにまとめ出した。


「私の名前はディーネ・エクスクロス人類が生み出した希望の存在で遺伝子操作が可能な生命体か…?…それで…私に何を求めるの…?」


再びの問を私はこの先の未来に希望を抱きながら答えた。


「人類の寿命を延ばしてほしいの」


「延ばしてなにかあるのか?」


「人類の未来の可能性になるの!」


私は目を輝かせて答えるとディーネは複雑そうな顔を浮かべた後。


「可能性ですか。いいですよ。ただ…私には理解しかねることですが。私の生まれた理由がそれならばやりましょう。」


仕方無しのセリフで吐き捨てた。

きっと…まだ感情が上手く制御できてないのかもしれない。

わかっていたことだ。

機械的ならば命令すればそれを遂行するけれど、私はそれを望まない。

感情が欠落しないように調整したのも私だ。

ディーネを一番近くで管理してきた私が彼女を理解してあげなければ…導くのは私だ。

だから私は答える。


「きっとわかる日が来るよ!…絶対!」


ディーネの表情は変わらなかったが納得はしてくれたらしい。

ホッと胸をなでおろし安堵する。

実験室に一本の電話が鳴り響く。

私は小走りで電話の場所へかけより電話を取る。


「もしもし?どうしたの?」


「リー…だー…襲撃です…。」


「なんですって!?」


研究員の1人からだった。

息がか細く今にも息絶えそうな声で話す。


「そんな…襲撃だなんて過激派は鎮圧した筈なのに…」


「我々の中に…裏切り者が…いたんです…」


「なっ…」


「そいつは…誰にも気づかれないように…裏で過激派の残党を手引して…っごほ!」


「………っ…」


「奴らの目的は……ディーネ…です。」


「っ!!?」


「リー…だ…にげ…」


電話は切れてしまった。

状況を整理する。

現在この実験室の外側では過激派による襲撃が行われている。

この場所は安全だが…研究員に裏切り者がいたならばこの場所にはいづれたどり着かれてしまう。


「非常にまずい…」


「何がだ?あと…お前をなんと呼んだらいいんだ?」


「いや…今はそんな…話をしている暇は…」


ウィーンと実験室のドアが開いた。

いくつもの足音と共に現れたのは過激派の武装集団と研究員が私達の前に現れる。

過激派は銃口をこちらに向ける。


「おお…素晴らしいじゃないですか!本当に目覚めていたとは…。」


長身の体にクセの強い喋り方。

そいつの名前はゲルト・ベルファウル副リーダー。

頭はキレるしとても人当たりが良かったはずだ。


「ゲルト…なんで貴方が…。」


「リーダー…貴方がこんなにも抜けているとは思いませんでしたよ。」


「皆をどうした!!」


「…殺したに決まっているじゃないですか?流石にこの状況で活かすつもりありますか?あーでも…活かすのも有りでしたね?」


「………何が目的なの。」


「決まってるじゃないですか……それは…かっ!?!?」


ゲルトがディーネに近づいた時突然ゲルトは自身の手を首にかけ強く締め始めた。

ディーネは冷たい視線でゲルトに向かって告げた。


「私は人類を助けるために生まれた。なぜ争う。なぜ減らそうとする。私の目の前での殺戮なんて…私を否定しているのと変わらないじゃないか?…だから…そんなやつに私はついていかないし話も聞くことは…」


「っか!やめ…っ…!!」


「無い。」


ゲルトは自身の首を激しく締め上げ窒息死した。

ゲルトが率いてきたであろう過激派の残党は未だに銃口をこちらに向けている。


「…お前達は寿命を伸ばしたかったんじゃないのか?」


冷徹な表情でディーネはゆっくりと過激派の残党達に近づく。

その異様な空気に圧倒され後退りしていく者もいた。


「…俺達は…奪われた…そしてそれはもう帰ってこない!!だから…これは復讐なんだ!!!」


「そうか…。それも一つの考えだ。しかし…お前達だけが本当に奪われたのか?本当にそう言えるのか?」


「そうだろ!お前に何がわかる!」


「わからないよ…なにも。私には記憶がない。でも…私の生まれた理由は人類の希望になることだと言われたばかりだ。だから…無闇な殺戮は避けたい。」


ディーネは記憶がない。

ディーネはディーネの成すべきことを成そうとしている。

自我がちゃんと生まれている。

ディーネの説得も虚しく無数の銃口を向けられる。


「それが…お前達の…意思なんだな。」


過激派は容赦なく引き金をディーネに向けて引いた。

銃撃音が激しく鳴り響きディーネは蜂の巣になっていた。

その場に倒れ赤い血をドクドクと流しその場は過激派の勝利の歓声でいっぱいになった。


「……そんな…。」


愕然とする私の目の前が真っ白になった。


「ディーネ…。」


「残念だったな…リーダーさんよ。」


「………。」


「だめだこいつ…目が死んでやがる。」


「…でもよく見たらこいつ可愛い顔してんじゃん!」


私の周りでなにか喋ってるけど。

何も聞きたくない。

一人の男が私に触ろうとした時だった。


「いてぇ…いてぇなぁ…」


ディーネが倒れている方向から声が聞こえる。

ゆらりゆらりとディーネは起き上がっていた。


「せっかくもらった服も穴だらけ…とんだすけべ服になっちゃったなぁ?」


「ディーネ!!!」


立ち上がるディーネの存在に過激派は気付き再び銃を構えようとするがディーネの髪が意思を持ったように過激派の戦闘員をすべて捉える。


「何だこれは!」


「くそっ!離しやがれ!」


「絡みついて…とれない!」


私はディーネの方へ駆け寄った。


「ディーネ…よかった…。」


「あのさ…今、抱きつくのおかしくない?」


そう言えばまだ戦闘中だ。

ハッとして私は我に返ると軽く頭を下げて少し後ろに下がった。

ディーネを過激派の戦闘員は問いかける。


「貴様…なぜ生きている。」


「希望が死んだらだめだろ。以上。」


「……いみがわからん…。」


「そのままの意味だ。で?これからお前達はどうしたい?このまま私の下について幸せに生きるか。それとも…この場で死ぬか?」


「……………。」


「選択しろ。」


「わかった…。下につく。」


ディーネは髪の拘束を解く。

ディーネは私の方へ近づいて倒れ込んだ。

突然のことで驚いてしまったがなんとかキャッチする。

思っていたが予想通り軽い。

疲れてしまったのかそのままディーネは寝てしまった。

ディーネを一度その場で寝かせていると過激派の指揮を取っていた人物が接触してきた。


「…あんな大口叩いて姫様は寝ちまっているとか…まるで子どもだな。」


「なんですか?寝ているところを襲うつもりですか?」


「そんな事もうしねぇよ。仮に殺した所でこの姫様はまた蘇るんだろう?」


男はしゃがみ込みこちらに目線を合わせ会話を交わす。


「そうね。この子は姫様じゃない。ディーネ・エクスクロスっていう名前があるの。勝手に変な呼び方で呼ばないでくれる?」


「なんだ?お前?こいつの母ちゃんか?」


「そんなところよ。」


「そうかよ。じゃあ…とりあえず自己紹介だな。」


先程までの剣幕な空気は一変しており穏やかな雰囲気だ。

淡々とその自己紹介を済ませた後、眠るディーネをフォボスが背負い実験室を出る。

お互いに許した訳では無いが落ち着ける場所を探し一息つくことにした。

そこからは今後どうするべきかを互いに議論し合った上で行動をすることになった。

一日が経ち朝を迎えた。

ディーネは私の横で眠っている。

体を起こすとディーネも起こしてしまった。


「ごめん…起こすつもりは無かったのだけど…。」


「ん~~…別に構わないよ。それで…昨日の件についてはどうなったのだ。」


事の次第を説明し終えるとディーネは私にフォボス達を集めるように指示を出すとフォボス達は集まり今後の行動を指示する。

それから数十年後の時が流れた。

研究室は新しく創設されディーネの能力により人類は老いず劣らずの身体を手に入れた。

人口が過去100万だったが現在は1000万人と跳ね上がった。

このまま行けば人類は増えもっと栄えるであろう。

そう思っていたが…人口が増えるに連れて事件も複数起きる。

人一人の個人の心までは制御でき無いことだ。

良いことばかりではない。

何もなければ老いず劣らず生存ができる。

病気にかからない身体を作った。

ただ…この世界は気持ち悪いと感じるようになった。

ディーネ・エクスクロスは今ではこの世界の神様だ。

この世界の希望だ。

様々な規制を作った。

それでも事件は減らない。

ディーネの心はすり減っていた。

ディーネの一番近くにいたのに気づいてあげられなかった。

私は玉座に書き置きを見つけた。


親愛なる人類諸君へ


「私は十分に役目を果たした。」


ディーネ・エクスクロスは姿を消してしまった。

その後、この世界がどうなったかは誰も知らないし語られることは無いだろう。


一方でディーネ・エクスクロスは宇宙に適した身体に遺伝子を組み換え世界を抜け出していた。

行く宛もないまま宇宙を彷徨い惑星を見つけては適した身体に変化させ旅をしていた。

とある観測者がディーネを感知する。


「ちょいちょい!そこの人?貴方人間?」


「ん?ちょっと待ってくれ。」


ディーネは突然目の前に現れた緑髪の少女に対応する。最初何言っているかわからなかったため遺伝子を組み換え聞き取れるようにした。


「えーと…だから。」


「あ!おっけ!聞こえた聞こえた。」


「貴方…人間よね?」


「あー…うん。そうだけど普通じゃない新人類だぞ。」


「新人類…?へぇーやばー。」


「お前は?」


「あーメンゴメンゴ!アーシはね…ネクロフィアちゃん!宇宙に瞬く美少女JK!なのさ!(ドヤァ…)」


「ふーん。痛いね。」


「うっわなに?!のりわるー!」


「で、急に私に話しかけてきて何か?」


「いやぁーただ単に興味本位だよ。で!名前は?」


「私はディーネ・エクスクロス。」


「ディーネっちね。よきよきー。」


それから私はネクロフィアと共に行動する事となった。

ネクロフィアは瞬間移動が出来る。

ネクロフィアと顔見知りになった私はネクロフィアと共に様々な世界に降り立った。

どの世界も違って面白いものであった。


「ネクロフィア。」


「なんじゃね?ディねっち。」


「お前にとって寿命ってなんだと思う。」


「急にどしたん?」


「聞いただけだ。」


「ふーん。まぁ…尊いものかな。」


「………。」


「とはいえど…どれくらい生きたか私はわからないけど現にあたしゃめっちゃ長く生きてるんと思うんだけど…心臓刺されたら死んじゃうし。命は大事にー…って思ってるかな?」


「それが正しいと私も思う。」


何がいいたかったのか自分でもわからない。

ただ…少しだけ感情的になっただけなのかもしれない。

ネクロフィアとはこの話を限りに別れた。

あっさりとしていて気楽で良い旅だった。

この真っ暗な世界をいくつもの星々が光り輝く私はこの時異様な感覚に身を震わせる。


「なんだ…あれは…」


目の前の一つの惑星に禍々しい瘴気が渦巻いている。

私は吸い寄せられるようにその世界に足を踏み入れるのだった。


END