ユーリア・リープティアスエピソード

元々は…人間の少女。

その世界で伝説の竜に救われた少女。

竜は人々から嫌われていた。

世界を滅ぼした存在だから。

少女は何らかの事があり両親とはぐれてしまったらしい。

そこでたまたま寝ていた伝説の竜と出会い物語は動き出すのだった。


少女は泣き出しその騒音で竜は起きてしまう。

龍はギロリと少女を見るやいなや困り果てた様子だ。

その伝説の竜リープティアス。世界を滅ぼしたと言われる竜。だがそれはもう数千年も前の話。リープティアスは先祖がやらかしたことに嫌気が差していた。


人間の娘に対してリープティアスはたじたじだ。

なんとか泣き止まないかと必死で思考を巡らせる。しかしこんな身なりでは怖がらせてしまうだろう。そこでリープティアス。人の言葉を話してみた。人間の娘はピタリと泣き止む。意外にも自身の事を見ても驚かなかった。人間の娘の名前はユーリアといった


会話を重ねるうちに日が沈みいつの間にか夜になっていた。

両親はまだ見つからなかった。

そもそも…両親はいなかったのかもしれない。その理由は娘の身なりだった。

奴隷のように服はボロボロ、首輪の跡やかすり傷、火傷の痕、はぐれたのではない…輸送中の荷馬車から落ちたんだろう。そう推測した。


数日が立ちいつの間にか竜と娘の間には硬い絆が生まれていた。

そんなある日、娘がねぐらにしていた洞窟から姿が見当たらなくなっていた。様子がおかしいと感じた時娘の声が遠くで聞こえる。声がする方へ翼を羽ばたかせすぐに向かう。そこで見たものは兵士たちに囲まれたユーリアだった。


ユーリアは激しく抵抗するが大人の兵士に子供が勝てるわけがない。強引に連れ出されようとされていた。リープティアスは兵士たちの前に立ちはだかる。兵士たちはその場で勇敢にも剣を取り挑もうとしていた。

「人間よ、その娘を我に渡せ。」

兵士たちは怯むことはなかった。

その意気は良し次の瞬間…


時間を止め、ユーリアを救出。

事情を聞くとやはりなんとなく想像していた通りだった。ユーリアは貴族の奴隷だったらしい。貴族のもとへと向かう途中にユーリアの拘束がとけ荷馬車から落ちたそうだ。ユーリアはボロボロで彷徨っていた所リープティアスとであった。


その後、ユーリアを買い取った貴族。

それは…国王の王子。リープティアスの一件を兵士からの報告で聞くと国を上げた大規模な討伐隊がリープティアスを求めて向かってきていた。

リープティアスはユーリアに自身が…保管している宝の1部を手渡し人間の生活に送り出そうと考えていた。


ユーリアは断固反対。言うことを聞いてくれなかった。困り果てるリープティアスにユーリアは自信ありげに告げた言葉にリープティアスはなんとも言えない感情になっていた。

「リープティアスは私のお父さん。私は…お母さんもお父さんも覚えてない。リープティアスが居てくれたから生きてこれた。」


お父さん。変な響きだ。

「私ね、知ってるよ。リープティアスが毎晩毎晩私が風邪ひかないように尻尾のふわふわしてるとこで包みこんでくれてるの。あれすごくあったかくて優しい。」

ユーリアはニコニコと楽しげに語っていた。

けれど…人間と竜昔の一件は歴史として伝えられている和解は不可能だった


ユーリアにリープティアスは本音をぶつけた。

「我の力が…弱ってきている」

たった一言。

人間と争いたくない。

時間を司る力の代償。

竜としての代償は寿命だった。

今の今まで人間を傷つけないように時間を止めたりしてその場から姿を消していたから当然だ。本来は万年以上竜は行き続けるらしい。


もう数千年以上生きていたリープティアス。薄々は自身の終を考えていた。

ユーリアはその話を聞くと悔しい顔をしてボロボロと静かに泣いていた。

ユーリアは優しい子。リープティアスの人生で一番楽しい思い出は間違えなくユーリアとの時間をだと答えるほどにリープティアスは満足していた。


翌日ユーリアはねぐらからいなくなっていた。

洞窟の壁に石で器用に彫った文字。

「話しつけてくる」

その一言だけ。

そうこうしてるうちに夜になった。

でもユーリアは帰って来ない。

雲行きが怪しくなる一方で真っ暗な闇の中に多数の火の矢が放たれたのだった。


その矢はリープティアスがいるねじろに放たれたものだった。

リープティアス入り口を塞がれたがリープティアスも竜。ある程度の耐性はあるため入口を容易にぬけた。

その眼の前には王国率いる軍勢が集結しリープティアスと対面するような形だ。燃え盛る炎を後に王子が眼の前に立つ。


「邪竜よ!我ら人間に害を成す者よ!お前をここで完全に消し去り王国の未来を守る!我々は今日ここで貴様を打ち取る!」

王子が意を決した意気込みを語ると兵士たちの雄叫びと指揮が上がっていた。そんな中でかすかに聞き覚えがある声が聞こえた気がした。

「やめて!離してよ!」

ユーリアの声だった


「なんで!わかってくれないの!人間と竜が争っていたのはもうすごく昔なのに!なんでまた争おうとするの!!」

数時間前ユーリアは王国へ1人で向かい王子に会いに行ったのだ。

リープティアスは悪い竜じゃない。争ってもいいことはない!仲良くして欲しい。強く訴えかけた。


ユーリアは王子に刃向かったと見なされ拘束された。

見せしめとして王子は拘束されたユーリアを眼の前に差し出す。

地面に雑に投げ捨てられ刃を向けられるユーリアを見てリープティアスはこれ以上に無いほどの怒気を纏う。

「やめて!!お父さん!!」

その声にリープティアスはハッとする。


「やはり…竜と人間は相対することは無いのだ。皆も見ただろう。先程の殺意を。怪物だ。我々の未来に害はいらない。」

王子は顔色を変えることなく話を進める。

「確かに争っても我々は勝てない。ならば…人徳に反するが。この娘を使わせてもらう。」

ユーリアに刃物を付きたて首筋に当たる


ユーリアの細い首筋に伝う赤い雫。

リープティアスは今にも助けに行きたかった。しかし…タイミングが悪かった。自身で悟ってしまった。次に時間を止めてユーリアを救ったとしても自身の命が消える。死(終わり)が来ていた。

葛藤していた。でも…きっとこれは竜としての罰であるなら。


リープティアスは最期の力を使いユーリアを救って天高く飛翔する時間が止まった世界。リープティアスにはモノクロに映っている。

ユーリアの拘束を解いてユーリアの時間も動かした。

「お父さん…」

「お前は変なやつだ。」

くすくすと笑うリープティアス。

ユーリアはボロボロと泣いていた。


「お前はよく泣く娘だな。」

「お父さんは優しいのに全然…悪くないのに誰も味方になってくれなかった。話を聞いてくれなかった…。悔しい…悔しい!!」

じたばたとするユーリアを見てリープティアスは少しホッとした。

外傷はあれど…ちゃんと動けていたからだ。人間の体は脆いゆえに心配だったのだ


「ユーリア。無事で良かった。」

安心したようにリープティアスはニコリと笑う。時間が止まっている世界。ユーリアとリープティアスだけが動ける世界。どれくらいそれから話したか覚えてない。でもこれはお互いのわがままだったんだと気付いたのは朝、新しいねぐらでリープティアスが死んでいた時だ。


ありがとうもなくサヨナラもなくリープティアスに声をかけても反応がなくていつもなら暖かい大きな身体も冷たくなってた。

私の家族が死んだ。

違和感はあったんだ。

時間を止めている期間が長かった。

リープティアスは自身の意思で時間を止めたりすることや動かすことも出来たらしい


最期の能力を使い

最愛の娘との時間を生きたかった一匹の竜。伝説の竜。時を司る竜リープティアスは最愛の娘ユーリアの前で静かに息を引き取った。

ユーリアはリープティアスとの会話を思い出す。それはリープティアスの能力についてだ。


リープティアスの竜核(心臓)を生物が体内に取り込んだ場合エネルギーとなる取り込んだ生物の心臓と同調。生物は何らかの能力に目覚める可能性が高い。大昔リープティアスの先祖が試したそうだ。結果は適正があるものには上手くいった。しかし適性がないものは竜核に魂を吸われ残酷な死を迎えたらしい


ユーリアはリープティアスの竜核を数ヶ月かけて取り出した。

竜核はとても大きくユーリア1人では運ぶことすら出来なかったためあれやこれやと試行錯誤しやっとのおもいで取り出しに成功した。竜核は大きな球体でまるで真珠を何万倍にしたくらいの大きさだった。


荒く取り出してしまったこともあるのか、竜核に少しヒビが入っていた。

ユーリアはヒビの入った部分を拝借竜核の欠片を手にするとそれを石刷り。粉末状にする。ユーリアは自らを実験台にした。粉末状の竜核を水と一緒に飲み込んだ。ユーリアはずっと考えていた。


もしかしたら、自身がリープティアスを引き継げるかもしれない。過去に飛んでまたリープティアスに会えるかもしれない。ただの妄想が現実になるわけ無いかもしれない。無いに近い可能性。リープティアスと同じ時間を司る能力を求めて、竜核を取り出し自身に取り込んだ。結果は…成功…かと思われた


奇跡は起きた。

ユーリアはリープティアスの同じ能力を得た。時間を司る能力。しかし代償は記憶だった。今までのリープティアスとの記憶が消えていってしまった。能力を使うたびにユーリアはユーリア自身の人格が迷子になっていた。目的を見失わないようにメモしようとしたが出来なかった。


いつの間にか自身が、何者で何のために何を成そうとしてきたのか。分からなくなっていた。水面に映る自身の姿は違和感しか無い。人の顔に竜の尻尾。あと羽みたいな物が背中についてたりした。リープティアス、ユーリアという言葉だけ覚えていた。数千年後かつての王国は滅んでいた。


「私はどうしたかったんだろう。」

独り言をポツリと呟く。

ぽたぽたと雨でもないのに

顔が濡れている。

私は泣いていたらしい。

「っ…なにも…思い出せないよ…」

過去に戻ってもこの姿となったユーリアはリープティアスと対面したが全く思い出せなかったのだ。


そうして彼女ユーリア・リープティアスは能力を使うことをやめ孤独に世界を周っていく。どれだけ時間が経てど彼女は衰えず変わらぬ日常をおくる。そこに彼女の笑みは無かった。竜核と彼女の心臓は相性がよく無限の命を与えていた。まるで何かが彼女を守るかのように。

End